この記事は、私立大学の一般選抜を複数受ける高校3年生・既卒生と、その保護者の方に向けたものです。受ける大学の名前はだいたい決まってきたけれど、「どの方式で、どの日程を、何日ぶん受けるのか」はまだ白紙、という段階を想定しています。川越の生徒からも、この時期はこの相談がいちばん多く来ます。
2月の私大入試は、1日だけの出来事ではありません。方式ごとに締切が違い、同じ大学でも日程によって問題が違います。ここを事務手続きだと思って後回しにすると、点数のほうが先に削られます。
日程の組み方が結果に効く、3つの理由
第一に、過去問の準備量が日程の数で決まります。大学によっては、日程を1つ増やすだけで解くべき過去問が丸ごと1セット増えます。逆に、日程を増やしても解く問題が変わらない大学もあります。この違いを知らずに本数を決めると、「出願はできたが、その日の問題を一度も通して解いていない」という日が生まれます。
第二に、連日受験の負担です。試験は往復の移動を含めて1日をまるごと使う行事なので、日程を詰めた分だけ、翌日に回せる準備の時間が消えます。私立の合格ラインは素点でおおむね6割から7割。疲れて6割に落ちた状態の1日を増やしても、合格の確率は上がりません。
第三に、本命の前に受ける試験には意味があります。本番の会場で、本番の時間割で解く経験は、自宅で過去問を解くのとは別のものです。本命より前に1校受けているかどうかで、本命当日の1限の入り方が変わります。ただしこれは「前に置く1校」の話で、数を増やせばよいという話ではありません。
同じ大学でも、日程が違えば問題が違う
ここが誤解されやすいところです。「◯◯大学の過去問」という言い方が成り立たない大学があります。
法政大学:冊子の表紙の番号が、そのまま日程を表す
法政大学の問題冊子の表紙には3桁の番号が印刷されていて、これが日程を表しています。同じ番号の冊子は同じ問題、違う番号なら別の問題です。大学ごとの入試対策読本を自作するなかで、3年分の問題冊子105冊を機械的に突き合わせ、文章を12文字ずつ区切って一致率を計算しました。違う番号の冊子で内容が一致した組み合わせは、一つもありませんでした。
- A方式(個別日程)は試験日ごとに冊子番号が割り振られ、同じ試験日にまとまった学部は、学部が違っても英語も国語も日本史も同じ問題です。法学部Ⅱ日程・国際文化学部・キャリアデザイン学部は同じ1冊を解きます。
- 逆に、同じ法学部でもⅠ日程(国際政治学科)とⅡ日程(法律・政治学科)は別の冊子で、別の問題です。
- T日程(統一日程)とA方式は完全に別の問題です。T日程も受けるなら、T日程の過去問を別に解く必要があります。
- 同じ冊子でも学部によって解く範囲と時間が違うことがあります。A方式の英語は文学部(哲・日本文・史)だけ3題60分、経営・人間環境は4題90分と、冊子の表紙に明記されています。
法政の過去問集には複数の日程が収録されていますが、自分に関係のあるのは1つか2つだけです。学部・日程ごとの中身は法政大学の日程別の違いの記事で整理しています。
明治大学:学部別は1日1学部、同じ問題を使う組み合わせがない
明治大学には、学部ごとに別の問題を解く学部別入学試験と、全学部が同じ問題を解く全学部統一入学試験があります。全学部統一が先に1日、そのあと学部別が10日程、1日1学部で並びます(日付は年度で動くので、必ず自分が受ける年度の募集要項で確認してください)。学部別入試には、複数学部が同じ問題を使う組み合わせが一つもありません。法政のような「同じ日のグループだから同じ問題」という得がなく、学部を1つ増やせば過去問も1セット増えます。また全学部統一の問題は学部別とは別で、学部別の過去問では代替できません。そのかわり1回の受験で複数学部の判定を受けられるので、「1セットの対策で複数の出願先」という組み方ができます。
東洋大学:学部・方式が違っても形式が共通
逆のパターンもあります。東洋大学の英語は、学部も方式も違う問題を並べても、長文読解2本+短文の語彙文法+会話文+和文対応の整序英作文という5大問・60分の構成が共通していました。形式が固定されている大学は、日程を増やしても形式の練習が増えません。別日程・別方式を重ねる価値が高いタイプです。
慶應義塾大学:統一入試がないので、学部ごとに種目が変わる
慶應義塾大学には、明治の全学部統一や法政のT日程にあたる方式がありません。10学部が連続10日間に1日ずつ並び、制度上は全学部に出願できますが、実際に対策が回るのは2〜4学部です。文学部・法学部・経済学部B方式は「英語+地歴+小論文」で科目構成が同じでも、英語は文学部が辞書2冊持込の全記述、法学部が全マークで英英定義の語彙20問、経済B方式が前半マークの足切りのあと引用つき英作文。学部を替えることは、試験の種目を替えることだと考えてください。
過去問を日程別に集める必要がある大学の見分け方
- 全学部共通の統一日程があるか。あれば1セットで複数学部に出願できます。ただし統一日程と個別日程は別問題なので、両方受けるなら2セット必要です。
- 個別日程が「1日1学部」か「同じ日に複数学部」か。同じ日に複数学部がまとまる大学はその日のグループが同じ問題。1日1学部の大学は学部ごとに別問題です。
- 大学の過去問公開が「学部別」か「日程別」か。日程別に公開されている大学は、日程が問題の単位だという意思表示です。公式の公開が2年分だけの大学もあります。
日程を組むときの手順
- 受ける大学・学部を出す。実力校・挑戦校・安全校を各1校、方式は各校2つまでが基本の形です。ここが決まっていない人は先に併願校の決め方を読んでください。
- 各大学の方式と日程を、1行1日程で書き出す。「大学名/方式/日程(冊子番号や学部)/科目」の4項目です。ここで初めて重複と空白が見えます。
- 過去問が何セット必要になるか数える。次の節の数え方で時間に換算します。
- 移動と連日を確認する。同じ日に2つは受けられません。連続で受ける日数と、会場のキャンパスを確認します。
- 削る。ここまでで必ず多すぎる状態になります。削ることを前提に組んでください。
過去問が何セット必要になるかを数える
数え方は単純です。1つの日程を1セットとして、セット数×その日程の科目数×解く年度数=解く試験の本数。1本を解いて採点して復習するまでを2〜3時間と見て、時間に換算します。法政で例を出します。A方式の文系は英語・国語・選択科目の3科目、T日程は2科目です。
- A方式を1日程だけ:1セット×3科目×3年分=9本。おおよそ20〜27時間。
- A方式を2日程(別の冊子番号):2セット×3科目×3年分=18本。日程を1つ増やしただけで9本、20時間前後が増えます。
- そこにT日程を足す:さらに1セット×2科目×3年分=6本。合計24本、50〜70時間。
ここで効くのが「同じ問題かどうか」です。T日程で複数学部に出願しても、問題が共通なので1セットのままです。一方でA方式を2日程受けると、冊子番号が違えば2セットになります。出願を1件増やすことと、過去問を1セット増やすことは、まったく重さの違う決定です。
明治なら学部別で1学部増やすたびに1セット増え、東洋のように形式が共通なら日程を重ねても解く形式は1つです。まず過去問に使える残り時間を出し、そこに収まるセット数を出願の上限にしてください。これが手順⑤の削る基準になります。
本命の前後に、何を置くか
本命の前に1校、会場で受ける試験を置いてください。自分でやってできた経験が自信のいちばん強い源になることが分かっていて、それは自宅の演習より本番の1日のほうが強く働きます。
慣らしの1校を選ぶ基準は3つ。本命より前で日が1日以上離れていること、その日の問題の形式が本命と近いこと、その日の過去問を1年分は通して解いてあること。解いていない日程を慣らしに使うと、慣らしではなく消耗になります。
入れすぎると逆に働きます。本命の前に3日も4日も試験を入れると、その日数分の移動と試験時間が本命直前から消えます。慣らしは1校、多くても2校。本命の直前日は移動のない日にしてください。後ろに置く日程も同じで、「保険」の名前で準備のない日程を増やすのは保険になっていません。
連日受験になるときの段取り
連続で受けるのは3日までを目安にしてください。法政のA方式だけで10日間に日程が散らばり、そこに他大学が入ります。
- 移動。会場までの経路と所要時間を、乗換案内で片道1回だけ調べて書いておきます。大学名だけでは会場が決まりません。法政は15学部が3キャンパスに分かれ、デザイン工学部は理系ですが市ケ谷キャンパスです。明治の全学部統一は札幌・仙台・名古屋・大阪・広島・福岡など複数都市で受けられます。
- 持ち物。受験票を自分で印刷する大学があります(法政は通常、試験日の5日前から)。連日だと印刷のタイミングを逃すので、まとめて印刷して日付順に並べます。あわせて、その日の時間割と大問ごとの持ち時間を1枚に書いて持っていきます。「大問Ⅰに15分、Ⅱに12分」と決めておくだけで、最初の1分が変わります。
- 当日決まるものの事前確定。法政のA方式の選択科目は1冊にまとめられ、解答用紙を選んだ時点で科目が確定して変更できません。理科も同じです。前日までに決めて紙に書いておいてください。
共通テスト利用をどう組み合わせるか
共通テスト利用の利点は日程設計の面でも大きく、2月の日程を1日も使わないこと、個別試験の過去問セットが増えないことの2つです。法政のC方式(共通テスト6教科7科目型)は、2026年度の入試結果では倍率が全方式で最も低く、国公立志望者がそのまま出願できる設計でした。
一方、科目数の少ない方式は受験生が集まって倍率が上がります。法政の英語外部試験利用入試は英語が免除される1科目型ですが、2026年度は方式全体で16.2倍。「科目が少ない=入りやすい」ではありません。合格ラインの読み方や何校まで出すかは共通テスト利用入試の記事に分けてあります。日程設計の側から言えるのは、共通テスト利用で出せる分を先に埋めてから、個別試験の日程を数えるという順番だけです。
出願の締切と、日程を変えられなくなるタイミング
日程は、出願締切を過ぎた瞬間に増やせなくなります。減らすことはできても、増やすことはできません。つまり日程設計の実質的な締切は、試験日ではなく出願締切です。
締切のかたちは大学ごとに違います。法政は出願書類が郵送のみで窓口持参は受け付けず、締切日当日の消印有効。複数出願する場合は出願登録も封筒も書類も調査書も、出願1件につき1通ずつ必要です。方式によって締切日が違い、T日程・共通テスト利用が先、A方式が後という構成です。慶應は出願登録が12月下旬に始まり、書類郵送の締切が1月中旬(消印有効)。3段階すべてが必須で、共通テストより前に出願作業が発生します。いずれも日付は年度で動くので、必ず自分が受ける年度の募集要項で確認してください。
締切の管理は、意志の強さではなく書き方で決まります。「もし◯月◯日の朝になったら、登校前に◯◯大学の出願サイトを開く」のように、いつ・どこで・何をするかを1文で先に決めておくと達成率が上がることが、90以上の研究をまとめた分析で確かめられています。出願締切・試験日・合格発表・入学手続き締切の4つを、この形で書き出してください。とくに入学手続きの締切は、合格しても逃せば無効になるので最重要です。確定させる時期の考え方は出願校をいつ確定させるかにまとめています。
「受けすぎ」のサイン3つ
- 「この日は何の問題を解くのか」を即答できない日程がある。冊子番号や方式の区別が言えない日程は、過去問を解いていない日程です。
- 本番と同じ時間で1年分も通していない日程がある。眺めただけ、部分的に解いただけは数に入りません。出願した日程の数と、通しで解いたセットの数を突き合わせてください。
- 連続受験が4日以上になる区間がある。移動を含めれば、それは4日分の準備時間の消失です。
削るのは③の連日区間、②の未演習の日程、①の区別がつかない日程の順です。日程の選び方の具体例は日東駒専の日程選び、この先の全体の流れは12月から本番までの流れもあわせて読んでください。
保護者の方へ
お願いしたいのは、移動と締切の管理という2つの作業です。どちらも本人がやると勉強時間が削れるところで、かわりに引き受けやすい部分でもあります。
移動は、受ける日程ごとに会場のキャンパスと片道の所要時間を1回だけ調べ、一覧にしてください。同じ大学でも学部でキャンパスが違うことがあります。締切は、出願・試験日・合格発表・入学手続きの4つを大学別・方式別にカレンダーへ転記します。郵送が必要な大学は封筒と調査書の必要数まで、受験票を自分で印刷する大学は印刷できる日も書き添えてください。
志望校そのものの判断は、本人の視点を尊重して選択の余地を残す関わり方のときに本人の自己調整と成績が高い、という研究結果があります。日程も同じで、事実の一覧を用意して、決めるのは本人に渡す形が動きます。
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