早稲田大学と慶應義塾大学を両方受けるつもりの高校3年生・既卒生と保護者の方へ。どちらが上かという話はしません。入試の作りがどう違い、併願したときに準備がどこまで重なるのかだけを整理します。
いちばん大きな違いを先に書きます。慶應には国語がありません。現代文・古文・漢文を課す学部は一つもなく、代わりに10学部中7学部で小論文(うち医学部は第2次試験)が、商学部B方式では「論文テスト」が課されます。一方の早稲田には国語があり、漢文が独立した大問で出る学部があります。法学部と商学部は3年とも例外なく漢文が独立大問で、法学部の国語には120字以上180字以内の説明記述が毎年付きます。
早慶併願で問題になるのは、片方にしかない科目を2つ同時に抱えられるかです。
もう2つ、慶應の前提
- 統一入試がない。一つの試験で複数学部に出願できる方式がなく、10学部が10通りの試験を1日ずつ実施します。
- 共通テスト利用がない。2026年度一般選抜要項の全文に、共通テストを合否判定に用いる記載はありません。10学部すべてに設定されていません。
早稲田は違います。政治経済・社会科学・国際教養・人間科学・スポーツ科学・教育C方式D方式は共通テストの点が合否に直接入り、共通テスト利用入試も6学部にあります。慶應は共通テスト利用で本数を増やせないので、受験する学部の数だけ検定料がそのまま積み上がります。
科目構成の違いを、科目ごとに
- 英語/どちらも全学部必須ですが、記述の重さが学部で段違いです。全記述の学部と全問マークの学部が両大学に混在しています(実測値は次の節)。
- 国語/慶應はゼロ。早稲田は法学部が4大問・50点・90分で最後に120〜180字の記述、商学部が3大問・60点・60分で説明記述なし、文学部が4大問・75点・90分、教育学部A方式は50点・90分で記述ゼロ。文化構想学部は漢文の独立大問がない3大問ですが、返り点と訓読は必出です。
- 小論文/早稲田の一般選抜にはありません。慶應は文学部100点・90分、経済学部A・B方式70点・60分、法学部100点・60分、商学部B方式の論文テスト100点・70分、SFCが200点・120分で満点の50%。課さないのは商学部A方式・理工学部・薬学部だけです。
- 数学/早稲田の文系型は商学部数学型(90分・60点)、社会科学部数学型(60分・60点、途中経過がないと採点対象外)、人間科学部数学英語型(60分・40点)。慶應は経済学部A方式(80分・150点。2027年度から100分・200点)、商学部A方式(70分・100点)、SFC(120分・200点)。
- 社会/早稲田で地歴を課すのは法・商・文・文化構想・教育学部A方式の5学部、いずれも60分。政治経済は法・商で選べます。慶應は世界史・日本史の2択が基本で、地理が選べるのは商学部A・B方式だけ。政治・経済は科目表に見あたりません。
- 理科/早稲田は理工3学部(2科目120分・各60点)と教育学部B方式(60分・50点)。慶應は医学部が物化生から2科目、理工学部は物理と化学が両方必須で生物選択では受験できません。薬学部は化学のみで、150点の最大配点科目です。
配点・試験時間・範囲は年度で変わります。自分が受ける年度の要項で必ず確認してください。
英語の違いを、実測値で
- 慶應 文学部/120分・150点。辞書2冊可。約2,100語の評論1本(2026年度は2,136語)を全記述で。和訳2問、日本語の内容説明2問(100〜120字と50〜75字)、英作文1本。受験者平均点は44.8%です。
- 慶應 法学部/80分・200点。全問マークで記述も英作文もなし。5題で計約2,500語、48〜53問。語彙問題20問が全体の約40%。受験者平均点は73.6%です。
- 慶應 商学部/90分・200点。マーク46問+記述11問で、設問・選択肢込みで3年とも約5,200語、1分あたり約58語。SFCは120分・200点で3題60問すべてマーク、計3,680〜4,280語(1分あたり31〜36語)。英語IIIが1,230〜1,550語で30問=配点の半分です。
- 早稲田 法学部/90分・60点。長文2題(1000語超)と英作文2題。語数指定はありませんが実際は1題150語前後を2本で、20分以内に書き切る設計。和訳・英訳・要約は3年とも出ていません。
- 早稲田 文・文化構想学部/90分・75点。空所補充14問・内容一致10問・文挿入7問・会話文7問・英語要約1問。記述は要約だけで、4〜10語で完成させ、本文から3語以上を連続借用できない条件です。
- 早稲田 商学部/90分・地歴公民型80点。長文4題+会話文でマーク100問超、記述5〜6カ所。社会科学部は60分・60点で長文4題のみ、記述は3年ともゼロです。
英作文があるのは慶應なら文学部・経済学部・医学部、早稲田なら法学部・教育学部C方式・国際教養学部。要約系は慶應の文学部、早稲田の文・文化構想・国際教養・教育学部C方式です。大学ではなく、学部を替えると種目が替わります。くわしくは早慶上理の英語の比較へ。
慶應の小論文と早稲田の漢文は、準備がかぶらない
慶應の小論文は学部ごとに別物です。法学部は対立する2つの意見と統計資料を読ませて800字以内で自説を述べる型で、2026年度は内閣府の世論調査が資料。「なお、結論は問わない」とあり、論証の過程を見ています。文学部は思想系の雑誌に載った人文学の論考を読ませる課題文型。商学部B方式の論文テストは、要項の説明に「発想」「構想力」がなく、資料と図表を読む力が中心。SFCは10ページ超の資料集を120分で処理し、図示を求める設問があり、環境情報学部では算数・数学が混ざる年もあります。準備の中身は資料を時間内に読み切り、論点を取り出して指定の形式で書く動作の反復です。
早稲田で漢文を捨てられないのは、法学部・商学部(毎年独立大問)、文学部(4大問の1つ)、教育学部A方式(5〜6問)、文化構想学部(融合大問の中で返り点と訓読が必出)。必要なのは句法・再読文字・返り点・書き下しという、ルールを覚えて手を動かす種類の勉強です。加えて文化構想学部は大問一が毎年「現代の評論+近代文語文」で、明治の文語文が3年とも出ています。法学部の国語の受験者平均点は50点満点で44%です。
両方やる場合の1週間の配分例
週に使える時間を35時間と仮に置いた例です。大事なのは「両方に効く時間」と「片方にしか効かない時間」を分けて数えることです。
- 英語 12時間(両方に効く)。語彙と、抽象度の高い評論を読む練習。
- 社会 8時間(6時間は両方に効く、2時間は学部別の形式練習)。
- 早稲田の国語 6時間(片方だけ)。うち漢文を2時間の固定枠に。古文3時間、現代文1時間。
- 慶應の小論文 4時間(片方だけ)。週1回は時間を計って書き切るところまで。
- 過去問と見直し 5時間。
週35時間のうち10時間、約3割が片方にしか効かない時間です。これが早慶併願の負荷で、確保できないなら片方に絞るか、受ける学部を減らすかになります。
社会と数学は、どこまで共用できるか
両方に使えるのは、世界史・日本史そのもの(早稲田の法・商・文・文化構想・教育A方式、慶應の文・法・経済B方式・商A方式B方式)、中国史の通史(早稲田の世界史は5学部すべてで毎年1題、慶應法学部は12大問中4つが中国主題)、19〜20世紀の近現代です。数学なら場合の数・確率、数列、微分積分(Ⅱ)。慶應の文系数学は場合の数・確率が12冊すべてに出る唯一の分野で、早稲田でも商学部は数列と微積分(Ⅱ)が3/3です。
使えない範囲は次のとおりです。
- 慶應経済B方式の範囲限定。B方式の地歴は1500年以降が中心とされ、日本史は3年間で1500年以前が0問、世界史も72小問中3問(4.2%)。単独なら原始古代と中世を捨てられますが、早稲田の文学部は第1問が古代オリエントで3/3、文化構想学部は原始から現代のテーマ通史。併願するなら全時代が必要です。
- 論述の長さが揃いません。慶應は法学部が200〜300字級、経済B方式は字数指定のない論述が日本史で毎年10問前後、商A方式が25〜30字。早稲田は法学部の世界史が250〜300字、商学部が100〜120字、文と文化構想は論述なしです。
- 地理と政治・経済は入口が噛み合いません。慶應で地理が使えるのは商学部A方式だけ、早稲田では教育学部A方式だけ。早稲田で政治・経済を使うなら、慶應では世界史か日本史を別に仕上げることになります。
- 数学は範囲が違います。慶應商A方式は図形の性質・場合の数と確率・数列・ベクトルの4単元に限定で、整数の性質は2025・2026年度ともゼロ。早稲田の社会科学部数学型は整数が3/3で最頻出です。逆にデータの分析は早稲田の文系型で3年間・全方式0回ですが、慶應商A方式では2025・2026年度とも大問I(i)にあります。
学部ごとの中身は早稲田の学部別の違いと慶應の学部別の違いへ。
日程は重なる期間がある
日付は年度で変わるので必ず要項で確認してください。
- 慶應は10学部が2月9日から18日の連続10日間に1日ずつで、同じ日に2学部は重なりません(2026年度。2027年度も同じ並びと公表)。
- 早稲田は2027年度が2月8日の人間科学部(数学選抜方式)に始まり、2月12日から23日の12日間、ほぼ毎日どこかの学部で試験があります。
- 2月12日から18日ごろは両大学の試験期間が重なります。同じ日に両方が並べば片方しか受けられません。
- 同じ大学の中でも受けられない組み合わせがあります。早稲田の理工3学部は同日(2027年度は2月16日)で併願不可。慶應は同一学部内の併願がすべて不可で、経済A/B、商A/Bなどは出願時に1つに決めます。
10日連続で受け続けるのは現実的ではありません。慶應は3学部までが無難です。組み方は併願校の決め方も参考に。
「どちらかに絞る」なら、いつ・何を基準に
慶應の出願登録と検定料の支払いは12月下旬に始まり、「ネット登録」「支払い」「書類の郵送」の3段階すべてが必須です。判断は12月上旬までに。
- 片方にしかない科目を、2週間続けて週に入れられたか。10月中に漢文と小論文の枠を予定に入れて回し、英語と社会が削れるなら維持できません。
- 共通テストを使いたいか。慶應は10学部すべてに共通テスト利用がありません。押さえを共通テストで作るなら、早稲田側に寄ります。
- 記述の量に手が動くか。ただしこれは大学ではなく学部で決まります。慶應法学部は全問マーク、早稲田法学部は英作文2題。「記述が苦手だから慶應」という選び方は成り立ちません。
- 検定料と日数の上限。本数がそのまま金額になるので、上限を家庭で先に決めてください。
- 慶應経済学部志望なら小論文の休止を前提に。2027年2月実施の一般選抜から小論文が休止され、A方式は数学、B方式は地歴が200点・100分に拡大し、2科目400点満点になります。
両方受けるなら、最低限やっておくこと3つ
- 英語を毎日の土台にする。両大学で共通して効くのは語彙と、抽象度の高い評論を読む力です。早慶の素材は学術書や一般向け評論からの抜粋が中心で、ここがないと形式練習も乗りません。
- 受ける学部を先に決め、その学部の形式だけを練習する。早稲田は原則として学部ごとに完全な別問題です(例外は理工3学部の共通問題と、文・文化構想の英語が同形式・別問題であること)。慶應も10学部が10通り。年度単位で端から解くより、受ける学部の冊子を回すほうが効きます。
- 片方だけの科目を、週の固定枠として先に予約する。漢文と小論文は、余った時間でやろうとすると必ず消えます。あわせて慶應の段階採点を確認してください。経済A方式は英語の一部と数学の一部、B方式は英語の一部が基準に届かないと、小論文も地歴も採点されません。法学部は外国語と地歴の合計点、かつ地歴単独の得点の両方が条件です。
残り数か月の優先順位
- 10月前半・受ける学部を確定させる。早稲田と慶應で何学部かを決め、必要な科目を書き出します。
- 10月から11月・両方に効く部分を上げる。英語と社会です。早稲田は科目別の受験者平均点が素点で公表されているので、過去問の素点をその平均と並べてください(法学部の英語は60点満点で29.873点=50%)。慶應は合格最低点が年度で動くので、直近2年の得点率の高いほうに5ポイント足した値を目標にします。
- 11月・片方だけの科目を入れる。漢文は句法・返り点・書き下しから。小論文は週1本、時間を計って書き切るところまで。
- 12月・出願を確定させる。日程の重なりと、同一学部内の併願不可を最終確認します。
- 1月・最新年度の過去問を本番と同じ時間割で解く。解く順序と捨てる基準を学部ごとに決めます(早稲田法学部の国語なら180字記述に20分を残す水準まで)。
つらさが続くようなら、学校の先生や保護者、専門の窓口に相談してください。
両方受けることは対策が2倍になる意味ではありません。重ならないのは週で数時間の部分です。そこを先に確保できるかが、この併願が回るかを決めます。
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