漢文は、国語の中でいちばん「やるかやらないか」が分かれる分野です。出る大学・学部・日程が限られているぶん、その判断がそのまま得点差になります。この記事は私大の一般選抜で国語を使う高校生・既卒生に向けて、漢文が出る学部を実測値で確認し、やると決めた場合の最短の手順を書きます。
数字は大学ごとに自作している入試対策読本で2024〜2026年度の問題冊子を確認したものです。形式・配点は毎年変わりますので、最後は自分が受ける年度の入学者選抜要項で必ず確認してください。
漢文が出る学部・日程を、実測値で確認する
「〇〇大学は漢文が出る」という言い方が成り立ちません。同じ大学でも学部で変わり、学部が同じでも日程や方式で変わります。
早稲田大学
- 法学部は大問4題のうち1題、商学部は大問3題のうち1題が漢文で、どちらも3年とも例外なく独立大問。法は50点・90分(最終問に120〜180字の記述)、商は60点・60分で記述ゼロです。
- 文学部 大問4題のうち1題で、設問28〜30問のうち漢文は5〜6問。75点・90分。記述は漢字・抜き出し・書き下し・返り点の短答のみ。
- 文化構想学部 漢文の独立大問はありませんが、大問3題のうち1題が現代文・古文・漢文の融合問題で、3年とも出ています。返り点と訓読の設問は必ず出るので、漢文を捨てられません。
- 教育学部A方式 大問4題のうち1題で29〜33問のうち5〜6問と短い。教育学部C方式(国語国文学科)は大問3題のうち1題が漢文または明治期の漢文訓読体で、返り点付け・現代語訳が並びます。人間科学部の国語英語型は現代文2本のみで古文・漢文の独立大問なしでした。
明治大学
- 漢文が出るのは文学部だけで、3大問のうち1題。3年とも出ています(2024年度『近古史談』、2025年度『貞観政要』と杜甫詩、2026年度『後山談叢』)。記述は口語訳2問前後・書き下し・返り点に集中します。
- 法・商・政治経済は国語9冊で漢文の独立大問が3年とも一つもありません。要項にも「漢文の独立問題は出題しない」とあります。経営・国際日本・情報コミュニケーション・農も確認できた年度すべてで漢文なしでした。
- ただし法学部と商学部は、古文の小問に訓点つきの漢文や書き下し文が混じる年があります(法2024年度『帝王編年記』の書き下し文選択、2026年度『続本朝往生伝』の訓読、商2026年度『倶舎論』の引用)。返り点と書き下しの初歩だけは押さえてください。句法の網羅は不要です。
立教大学
- 全学部日程(2月6・8・9・12・13日)の国語を確認した11冊すべてで漢文の独立大問はゼロ。漢詩や訓読文の引用もほとんどありません。
- 漢文が入るのは2月11日の文学部日程だけ。この日は現代文1題・古文1題・漢文1題の3大問で、現代文が1題減ってそこに漢文が入ります(国語200点・75分)。出題意図にも「漢文は2月11日の文学部日程のみ出題」と明記されています。この日を受けないなら、立教のために漢文をやる必要はまったくありません。
学習院大学
- 国語9冊のうち、漢文が出るのは文学部コア試験だけ。4大問で配点は現代文45+現代文45+古文40+漢文20の150点・90分で、漢文は20点で確定、3年とも出ています。法学部コア系・経済学部コア系の6冊はすべて0問です。
- 同じ文学部でもコアかプラスかで変わり、2026年度の英語英米文化プラスは法学部コア日に付いたため漢文のない100点の国語でした。
中央大学
- 漢文が出るのは文学部だけで20点固定。ほかの学部では3年間で1度も出ていません。文学部は60分・100点で現代文1題+古文30点+漢文20点。3分野を60分で処理するので、中央の国語では最も時間が厳しい試験です。
法政大学
- 国語9冊のうち漢文が出るのは2つだけ。A方式の冊子207を使う文学部志望者(現代文・古文・漢文の3題・60分)と、T日程の文学部日本文学科(現代文2+古文+漢文・90分)。
- 全員が必ず解く漢文は9冊中0冊。同じ冊子207でも経営・人間環境・GIS志望者は解きません。冊子209(経済Ⅰ・社会Ⅰ・現代福祉)は3年連続で古文も漢文も出ませんでした。出典は『史記』刺客列伝、柳宗元「蝜蝂伝」と標準的です。
国語全体の比較はGMARCHの国語比較と早稲田の国語にあります。
やるか、やらないか。判断は3ステップで終わります
- 受ける可能性のある「大学・学部・学科・方式・日程」を全部書き出す。学習院の文学部コアと文学部プラス、立教の2月11日と全学部日程は、同じ学部に見えて中身が違います。
- 1行ずつ、漢文が出るかを要項と過去問で確認して○か×を書く。「〇〇大学は出ない」ではなく「〇〇大学△△学部の□日程は出ない」の粒度です。
- ○が1つでもあれば漢文は必要です。全部×なら、やりません。
「○が1つだけ」という人が必ず出ます。選択肢は二つで、その1校のために漢文を仕上げるか、その1校を受けないか。「受けるけれど漢文はやらない」が最も損をします。出願前に判断してください(志望校が決まったら調べること)。
やると決めたら、この4段階を順番に
漢文は範囲が狭い分野で、合計20〜30時間で一通り形になります。③④から始めると全部やり直しになります。
① 返り点・送り仮名・置き字・再読文字(3〜4時間)
最初の2〜3日で終わらせます。レ点・一二点・上中下点の読む順、送り仮名がどこに付くか、而・於・乎などの置き字を読まないこと、将・当・応・宜・須・猶などの再読文字を二度読むこと。理解ではなく作業の習得なので、白文と訓読文を見比べて手で書き下す作業を20〜30文こなせば体に入ります。読本が「最優先」に置くのも句法・再読文字・返り点です。
② 句法(10〜15時間)
否定(単純否定・二重否定・部分否定・全部否定)、使役、受身、反語、疑問、比較、限定、抑揚、仮定。この9系統を1日30分で2〜3週間回します。1系統ずつ仕上げるのではなく、9系統を薄く何周もするほうが定着します。1周目は意味だけ、2周目で書き下し、3周目で訳、と層を重ねます。
③ 頻出の語(5時間前後。②と並行)
覚える語は多くありません。「以」「為」「与」「所」「者」「若」「乃」のような多義の機能語、「蓋」「凡」「頗」のような副詞、臣・卿・寡人のような呼称。②の句法と同じ紙に書くのがコツで、別々に覚えるとどちらも薄くなります。
④ 文脈の型(残りの時間すべて。過去問と並行)
漢文の本文は型が限られています。史伝なら「状況→発言や行動→結果→評語」、説話や故事なら「出来事→失敗や成功→教訓」、思想文なら「一般論→反論→筆者の主張」。この型が頭にあると、読めない字が数か所あっても筋を追えるようになります。読本で確認できた出典も、すべてこの型に収まりました。
句法は「意味」ではなく「設問の形」とセットで覚える
句法を覚えたのに点にならない人は、意味だけを覚えています。読本で確認できた設問の形は4つです。
- 書き下し文を選ばせる(明治の法2024年度・商2026年度、早稲田の文学部)
- 返り点・送り仮名をつけさせる記述(早稲田の法・文・文化構想・教育C、学習院の文学部コア、法政T日程)
- 口語訳・現代語訳を書かせる(明治の文学部で毎年2問前後、法政T日程2025年度、早稲田の教育C)
- 訓読・読みを答えさせる(明治の法2026年度、法政T日程2024年度)
句法を1つ覚えるたび、次の形で書きます。
- 漢字の並び(例:未+嘗+不+動詞)
- 書き下し(いまだかつて〜ずんばあらず)
- 訳(今までに〜しなかったことはない=必ず〜した)
- まちがえやすい隣(部分否定と全部否定の語順、反語と疑問の文末)
- どの形で問われるか(書き下しの選択か、返り点か)
とくに効くのは4つめです。選択肢には、正解と語順や文末だけが違うものが並びます。「常不」と「不常」、「〜ヤ」と「〜ンヤ」のように、隣と一緒でないと選べません。1つずつより対で覚えるほうが速いのはこのためです。
白文に返り点をつける問題が出る大学がある
早稲田の法学部では、2025年度に白文に返り点と送り仮名を付ける記述が出ています。学習院の文学部コアは返り点の記述が毎年、法政のT日程は3年とも返り点(2026年度は2問)。早稲田の文化構想学部は漢文の独立大問がないのに、返り点と訓読の設問が毎年出ます。
対策は選ぶ練習ではなく書く練習です。書き下し文と白文を並べ、白文のどこに返り点と送り仮名を打てばその書き下しになるかを手で埋めます。述語と目的語の位置を意識すれば、打ち方は機械的に決まります。1日1〜2文でよいので毎日入れてください。
融合問題(現代文+古文+漢文)が出る場合
早稲田の文化構想学部は、大問3題のうち1題が融合問題で、現代文の解説を軸に古文と漢文を同時に読ませます。組み合わせは『方丈記』と『池亭記』、『今昔物語集』と『本朝文粋』と白居易、『孝子伝』と『二十四孝』。文学部では漢文2素材の比較、教育C方式では2024年度に『人虎伝』と「山月記」の比較、古文側でも『うつほ物語』と漢文『西京雑記』の融合が出ています。
対策は、漢文の量を増やすことではありません。「同じ話が、漢文と古文で形を変えて出てくる」という前提で読むことです。押さえるのは2点。どちらが元でどちらが翻案か(人物名や時代がずれていたら、そこは翻案側で変えた部分で、設問になりやすい)。そして現代文の解説が何を論点にしているか(設問は現代文側の論点に沿って古典を参照させます)。
漢詩は優先順位を下げてよい
漢詩の詩型・押韻の知識は、読本の優先順位表では「出ても1問。後回し」としています。早稲田の国語では、どの学部群の分析でも同じ扱いでした。
ただし「ゼロでよい」ではありません。明治の文学部では2025年度に杜甫詩が出ていますし、文化構想学部の融合問題では白居易が組み合わされています。学習院の文学部コアは中国文学史も範囲です。五言・七言と絶句・律詩の区別、押韻の位置、対句の見つけ方だけを1時間で押さえ、あとは句法と訓読に回すのが現実的です。
共通テストで漢文が要る人
共通テストの漢文の出題形式は、大学別の入試対策読本では扱っていません。自分が受ける方式で国語のどの範囲が必要かは、必ず自分の受ける年度の要項で確認してください。
読本の範囲で言えるのは、学部独自の国語がなくても共通テストの国語が効く場合があるということです。早稲田の社会科学部は2025年度から共通テスト併用型になり学部独自の国語はなくなりましたが、共通テストの国語が40点ぶん合否に入ります。
残り3か月から始める場合
漢文は、残り3か月からでも間に合う分野です。範囲が狭く、覚える量が少ないからです。ただし順番があります。
- 1週目 返り点・送り仮名・置き字・再読文字に3〜4時間。ここは飛ばしません。
- 2〜4週目 句法9系統を1日30分で3周。同じ紙に頻出語も足します。
- 5〜8週目 志望校の過去問の漢文の大問だけを週2題、1題20分以内で解き切る練習にします。解いたあとは必ず本文全体を書き下して訳をつける。ここが最も伸びます。
- 9〜12週目 返り点の記述が出る大学なら白文に返り点を打つ練習を毎日1〜2文。融合問題が出る大学なら、その形式の過去問だけをまとめて解きます。
間に合うのは句法・返り点・書き下し・短文の訳、標準的な史伝や説話の読解、返り点をつける記述。読本が「先に固める」としている部分はすべてここです。間に合いにくいのは中国文学史の細部、漢詩の作者ごとの特徴、明治の漢文訓読体。志望校で出ると分かっている人だけが手をつけます。
漢文を捨てる場合、ほかで何点取ることになるか
「出るけれど捨てる」なら、その分をどこで埋めるのかを数字で見てから決めてください。漢文の配点が確定している2学部で計算します。
学習院の文学部コアは国語150点の内訳が現代文45+現代文45+古文40+漢文20。漢文を捨てると残り130点で勝負します。
- 国語で6割(90点)なら130点中90点で、残り3大問の得点率は約69%。
- 国語で7割(105点)なら130点中105点で、残り3大問で約81%。現代文2題と古文でこの水準を安定させるのは、漢文20点を取りにいくより難しい話です。
中央の文学部は国語100点のうち漢文が20点固定。捨てると残りは80点で、国語7割(70点)なら80点中70点で約88%、6割(60点)でも80点中60点で75%が必要です。
つまり漢文20点は、現代文や古文で埋めるより、漢文をやって取るほうが明らかに軽いのです。20〜30時間で形になる分野が、現代文の得点率を10ポイント以上押し上げるのと同じ効果を持ちます。読本が学習院の文学部コアで「先に固める」の1番目に漢文を置くのも、この計算からです。
配点の内訳が公表されていない学部でも同じです。早稲田の文学部なら28〜30問のうち漢文が5〜6問、教育学部A方式なら29〜33問のうち5〜6問。おおよそ設問の2割で、漢文を捨てるのは国語の設問の2割を白紙で出すのと同じです。内訳や設問数は年度で変わりますので、要項と直近の過去問で確認してください。
進め方に迷うときは、学校の先生や保護者の方に早めに相談してください。つらさが続くときは、専門の相談窓口に話すのも一つの方法です。
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