この記事は、古文を「読めたのに解けない」と感じている高校2年生・3年生と、その保護者の方に向けたものです。川越・本川越周辺から私立大学を目指す生徒さんを想定し、入試の古文でどのジャンルが出るのか、読む前に何を知っておくと差がつくのかを整理しました。書き手はEIMEI予備校代表・英語科の二神大輝です。
古文というと「作品名と作者名の暗記」を思い浮かべがちです。しかし実際に効くのは、その作品がどのジャンルに属し、そのジャンルがどういう型で書かれているかを知っていることです。説話集は同じような教訓が形を変えて何度も出てきます。歴史物語は「である」と言い切らず「語る」体裁を取ります。この型を知らずに本文へ向かうと、内容は理解できても、なぜその話がそこにあるのかが見えなくなります。
どのジャンルが、どれくらい出ているか
EIMEI予備校では、早稲田・青山学院・中央・明治・立教・学習院・法政・東洋の8大学、古文89題(2023〜2026年度)を分析した読本を自作しています。
- 2024〜2026年度だけで79題(全体の89%)。直近の出題が中心です。
- 89題のうち実際の古文出題は86題(残り3題は現代文中の古典引用)。うち85題が6ジャンルに分類できました。
- 内訳は物語文学30題・説話集21題・日記紀行文学16題・歌論歌学書8題・近世文学6題・随筆4題です。
物語文学と説話集で51題、全体の約6割。日記・紀行を足すと67題です。この3ジャンルの型を先に入れておくだけで、初見の本文への当たりのつけ方が変わります。なおこの数字は私立文系・中堅上位校の傾向に寄ったものです。
ジャンルの前に和歌 ― 横断的に効く前提
「読めたのに解けない」状態の最大の原因は、地の文ではなく本文中に挟まれた和歌にあります。物語では贈答歌が心情のやり取りそのもので、日記では和歌が場面の山場に置かれ、説話集や歌論書では和歌の解釈自体が話の主題になるからです。押さえるべき修辞は四つ。掛詞は一つの音に二つ以上の意味を重ねる技法(「あき」に「秋」と「飽き」)。枕詞は特定の語を導く五音程度の決まり文句で、「あしびきの」が「山」を導くように、語そのものに現代語訳を与えないのが原則です。序詞は働きは似ていますが長さが定まらず、比喩や掛詞で次の語を引き出します。縁語は中心的なイメージに関連する語を散りばめる技法です。
これは知識問題では終わりません。学習院大学2024年度『うつほ物語』では、『後撰和歌集』の和歌を踏まえた掛詞の動詞を活用形にして記述させる設問が、早稲田大学2024年度の顕昭『袖中抄』では掛詞にあたる漢字一字を記述させる設問が出ました。学習院大学2026年度『我が身にたどる姫君』では「紫のゆかり」の典拠が『古今和歌集』雑上の和歌にあることを踏まえた設問、つまり本歌取りの知識が問われました。
その土台が勅撰和歌集です。『万葉集』は勅撰集ではありませんが原点として押さえ、そのうえで八代集の成立順、『古今和歌集』『後撰和歌集』『拾遺和歌集』『後拾遺和歌集』『金葉和歌集』『詞花和歌集』『千載和歌集』『新古今和歌集』を骨格として持ちます。基礎の積み上げ方は古文・漢文の勉強法もあわせてご覧ください。
物語文学(30題)― 三類型の見取り図
作り物語は虚構の筋を通して描く長編で、貴族社会の恋愛や家の盛衰を筋立てます。『源氏物語』が代表で、立教大学では2023年度に椎本巻、2025年度に関屋巻が出題され、いずれも和歌の解釈と組み合わせて心情を問う設問が中心でした。『うつほ物語』は学習院・早稲田・東洋で出ています。
歌物語は一首の和歌とその背景を短くまとめた章段の集積で、長い筋を持ちません。『大和物語』が代表とされ、青山学院大学2024年度では一〇三段が出ました。地の文よりも和歌そのものが主題だと意識し、和歌の解釈にまず注意を向けるのが読み方です。
擬古物語は、鎌倉時代以降に『源氏物語』などを規範として書かれた物語群です。ここで効くのが「後日談」「補作」という書かれ方の知識で、『山路の露』は『源氏物語』の後日談的な内容を持つとされ、本居宣長『手枕』(早稲田大学2025年度)は一場面を書き足した補作、中央大学2026年度の『別本 八重葎』も末摘花巻を描いた後世の擬作とされます。後世の書き手が平安物語を踏まえて書いた作品が数多くあると知っておくと、初見でも身構えずに読めます。
歴史物語 ― 「である」ではなく「語る」
歴史物語の最大の特徴は、地の文で言い切るのではなく登場人物が別の登場人物に昔語りをする枠組みを取る点です。読者は語り手の記憶と評価というフィルターを通して過去を知ります。この構造を意識しないと地の文の主語が誰か、敬語が誰に向けられているかを取り違えます。そこが設問になります。
- 『大鏡』は190歳の大宅世継と180歳の夏山繁樹が藤原氏の歴代を語り合い、若侍が合いの手を入れる対話形式。中央大学2024年度では敬語・主語判定・内容一致が問われました。
- 『今鏡』は早稲田大学2026年度で二つの大問に連続して出題。敬語と動作主体、和歌の作者を問う文学史設問などが並び、読解力と文学史の知識が同時に求められました。
- 『栄花物語』は対話への依存度が低く、出来事を時代順に記す書き方に近い作品。中央大学2026年度では敬意の対象と10字以内の抜き出し記述が問われました。
『大鏡』『今鏡』『水鏡』『増鏡』は「四鏡」と呼ばれます。学習院大学2024年度の『弁内侍日記』では『増鏡』との関係が文学史設問になっており、歴史物語が出典でなくても、日記文学の設問にその知識が組み込まれることがあります。
軍記物語 ― 語りの視点はどこにあるか
合戦の物語だから勇壮だろうと決めてかかると読み違えます。軍記物語の語り手は滅びる側への同情を含んだ視点から語ることが多く、結末以上に、その過程でどんな無常観が語られているかを追うのが軸です。
『平家物語』は琵琶法師が語り歩いたとされ、この語り芸は「平曲」と呼ばれます。声に出して語り伝えられることを前提に文体が整えられている点が他の物語との違いです。語り継がれる中で複数の系統(異本)が生まれたとされ、入試で出る本文が一つに定まった決定版とは限らない点も知っておくと動揺せずにすみます。一方『曽我物語』は合戦より一つの家の仇討ちに焦点を絞り、学習院大学2026年度では十郎と遊女虎御前の別れの場面で和歌の贈答が絡みました。
説話集(21題)― 反復構造を武器にする
仏教説話集の主人公は聖や僧だけでなく、盗人・遊女・身分の低い女にも及びます。共通するのは、俗世を捨てて仏道を志す「発心」と、念仏や善行によって極楽へ生まれ変わる「往生」の場面が繰り返し描かれることです。身分や事情の違いに気を取られず、「この人物はどんな心の動きを経て発心・往生に至るのか」の一点に注目します。編者の評言が末尾に添えられることも多く、そこに意図が集約されています。出題は鴨長明編とされる『発心集』、慶政上人編とされる『閑居友』、無住による『沙石集』、『宝物集』など。とくに『沙石集』は教訓を説きながら笑いを誘う世俗的な話材を取り入れる点に特徴があります。
一方の世俗説話集は主眼が「教訓」より「出来事の面白さ・珍しさ」に置かれ、話ごとに落ちどころが変わります。教訓を先に想定せず、「この話は何をもって面白いとされているのか」を意識すると筆者の評価の軸が見えます。『今昔物語集』はほぼすべての説話が「今は昔」で始まります。これは説話という文体の目印で、冒頭にこの句があれば、直前の話とのつながりを探す必要はない独立した逸話だと判断できます。『宇治拾遺物語』は同源説話を多く含み、早稲田大学2024年度では『撰集抄』の同内容説話と並べた比較読解が出ました。
配列の違いも効きます。『十訓抄』(1252年頃成立とされる)は教訓の種類ごとに十項目で分類し、『古今著聞集』(1254年成立とされる)は話題の分野ごとに神祇・釈教・政道・武勇などへ分類する百科事典的な性格を持ちます。なお法政大学では書名が明示されない説話系の出典も続きます。作品名が特定できなくても、人物の行動と結末を淡々と記すという語り口を押さえておけば対応できます。
日記・紀行文学(16題)― 「事実の記録」ではない
平安時代の女流日記文学は、実際の出来事をもとにしながらも後から作者自身の手で回想し、取捨選択し、編集し直された文学作品だと考えられています。ですから「作者が何を選び、何を書かなかったか」という編集の跡に注目するのが急所です。「その折は知らざりしを」のような後年の視点を差し挟む言い回しが手がかりです。
平安の公的記録は男性貴族が漢文で書くのが原則で、仮名文字は私的な文や和歌に用いる文字とみなされていました。そこに感情を書き込む余地が生まれ、女性たちが担い手となって和歌を核とした心情表現の文学が発達したと考えられています。地の文で心情を直接説明せず、その場で詠んだ和歌に心情を託す構成が繰り返されるので、和歌が誰から誰に向けて詠まれたのかを確認する読み方が求められます。出題作品は紀貫之による935年頃成立とされる『土佐日記』、『和泉式部日記』、同時代の女房・作家への人物評を含む『紫式部日記』、菅原孝標女による『更級日記』などです。
鎌倉時代以降は「宮廷生活の記録」と「旅の記録」の二系統で理解します。前者は書き手が御所に仕える女房で、行事の名称や女房どうしのやり取りが細かく描かれます(『たまきはる』『弁内侍日記』)。後者は道中で目にした歌枕を、先行する古典作品の一節を踏まえながら描写します(源通親による1180年成立の『高倉院厳島御幸記』、『松嶋日記』など)。地名が出てきたら、その地にまつわる古歌や先行作品が背後にないかを意識することが有効で、『松嶋日記』が『伊勢物語』の東下りを踏まえて八橋・宇津の山を描くのが典型です。早稲田大学2025年度では掛詞・序詞・縁語という和歌の修辞そのものが問われました。
随筆(4題)・歌論歌学書(8題)・近世文学(6題)
随筆は筆者自身の価値判断がそのまま地の文に出るジャンルです。「をかし」「あはれ」といった評価語で美意識を直接述べるため、出来事そのものより筆者がそれをどう評価し、なぜそう評価するのかが焦点になります。『枕草子』は「をかし」という明るく知的な美意識が軸ですが、室鳩巣『駿台雑話』(明治大学2026年度)は儒学的な道徳観が軸で、白居易の漢詩句や『論語』の一節が引用されます。同じ随筆でも拠って立つ基準がまるで違うのです。なお早稲田大学2026年度の『枕草子』は「堺本」という異本からの出題でした。見慣れた現代語訳と本文が食い違うと感じたら、異本からの出題を疑う姿勢が有効です。
歌論書・歌学書は、本文の主役が和歌を詠んだ人物ではなく和歌を論じる筆者である点が特徴です。まず和歌が引用され、評価や注釈が続くので、和歌そのものの意味と、評者の主張という二層を分けて捉える必要があります。歌論書は詠み方の理念を論じ、歌学書は語句の典拠を明かす注釈的な文章で、鴨長明『無名抄』は前者、顕昭『袖中抄』は後者の代表です。混同しやすい『無名草子』は作者未詳とされ、年老いた尼が女房たちの会話を聞く体裁で紫式部・清少納言・小野小町らの歌人評を交わす作品です。3大学で出ており、今、誰について何が語られているのかを常に確認しながら読みます。
近世文学では、江戸時代の文章でも文法や語彙の骨格が平安・中世の古典文法に準じていることがほとんどです。これを擬古文と呼びます。まず古典文法の知識で解き進め、そのうえで近世特有の語彙や語り口の癖を補うという順序が効率的です。もう一つの型が俳文で、簡潔な描写に俳味と呼ばれる軽妙な諧謔や余情を込めます。横井也有『鶉衣』(立教大学2024年度「伯母を悼む辞」)は人の死を扱いながら飄々とした語り口を持つため、字面どおりに深刻に受け取りすぎないことも必要です。
古文の教養は現代文にもつながる
見落とされがちですが、古典の知識が現代文の設問に直結することがあります。青山学院大学2026年度の現代文(谷知子『古典のすすめ』)では『古今和歌集』『万葉集』『百人一首』『今鏡』が横断的に引用され、「『土佐日記』以後に成立した日記文学の順序」を問う文学史問題もこの現代文の中で出ました。同大学2023年度の現代文(『伊勢物語』論)では和歌の修辞を15字以内で説明させる設問が出ています。評論の土台づくりは現代文 抽象概念の予備知識と現代文の勉強法も参考にしてください。
川越校舎での進め方 ― 手順と基準
- 和歌の修辞を先に固める。掛詞・枕詞・序詞・縁語・本歌取りの五つと、八代集の成立順。ジャンル横断で効くので後回しにしません。
- 6ジャンルの型を一枚の地図にする。「何が起きる話か」「どこが設問になるか」を自分の言葉で言えるようにします。
- 知らない作品に出会ったら、まずジャンルを判定する。「今は昔」で始まれば世俗説話、老人が誰かに語っていれば歴史物語、地の文に評価語が続けば随筆、和歌の引用に評価が続けば歌論書、という具合です。
- 設問形式ごとに手を動かす。敬語と主語判定は歴史物語で、和歌の修辞の記述は歌学書と紀行で、比較読解は同源説話で。ジャンルと設問形式はひもづきます。
- 志望校の出題ジャンルの偏りを確認する。同じ私大でも、説話が続く大学、和歌の修辞を記述させる大学、文学史を毎年添える大学と癖があります。
大学ごとの傾向は大学別 傾向と対策まとめで整理していますので、志望校が決まっている方はあわせてご覧ください。
川越校舎は1対1の個別指導です。古文は「どこでつまずいたか」が生徒ごとに違います。和歌が読めていないのか、敬語から主語をたどれていないのか、型を知らずに一文ずつ訳して時間切れになっているのか。ここを見極めてから手を打つほうが、同じ時間でも伸び方が変わります。自習室は朝7時から使えます。
まとめ
古文の予備知識とは、作品名の暗記ではなくジャンルの型の地図です。初見の本文に出会ったら、まずどのジャンルに属するかを判定し、その型に沿って読む。この一手間が、設問への当たりのつけ方を変えます。
EIMEI予備校川越校舎は2026年6月に開校しました。川越駅から徒歩5分、本川越駅から徒歩8分。グループ校舎はふじみ野・鶴瀬にあります。古文の読み方を整理したい方、志望校に合わせて計画を立て直したい方は、無料体験・個別説明会からお気軽にご相談ください。現在の学習状況をうかがい、何から手をつけるべきかを一緒に整理します。
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EIMEI予備校は川越・ふじみ野・鶴瀬の3校舎で、大学受験の1対1個別指導をしています。中高一貫校の中学生から、高校生・既卒生までが対象です。大学ごとに入試対策読本を自作していて、志望校が決まっている人には、その大学の出題に合わせて何をどの順番で進めるかを一緒に決めていきます。
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