「英語、時間内に解き終わらないんです」。面談でいちばん多く聞く言葉のひとつです。最後の長文に入ったところでチャイムが鳴る。塗り残しを見て、また速読の練習を増やす――この繰り返しになっている人が少なくありません。
この記事は、一般選抜の英語で時間が足りないと感じている高校生・既卒生と、その保護者の方に向けて書いています。結論を先に言うと、速読の練習を増やす前にやることがあります。自分の志望校では1分あたり何語読む必要があるのかを、先に数字にすることです。必要な速さが分からないままでは、足りているのか判定できません。
EIMEI予備校では大学ごとに入試対策読本を自作していて、試験時間・総語数・大問数・設問数を冊子から実測しています。以下はその数字です。
まず「どれくらいの速さが要るのか」を数字にする
やることは単純です。1回の試験で読む英文の総語数を、試験時間で割る。出てきた数字が、その大学が要求している処理速度です。読本の実測値から計算すると、こうなります(少ない順)。
- 慶應義塾大学 文学部:120分・実質1大問・約2,100語(2026年度は実測2,136語)→ 約18語/分。辞書2冊持ち込み可で全問記述。
- 中央大学 文学部:80分・4大問・1,400語級の長文1題 → 約18語/分。その1題に70点。
- 学習院大学(4学部型):90分・長文2本1,600〜1,800語・設問40問前後 → 18〜20語/分。
- 東洋大学(全学統一):60分・大問4〜5・長文2題(各600〜700語)・解答数37〜45 → 20〜23語/分。
- 中央大学 5学部共通選抜:80分・6大問・総語数2,300語超 → 約29語/分。
- 明治大学 農学部:60分・45問前後・1,000語級の超長文+800語級の会話文 → 約30語/分。
- 慶應義塾大学 SFC:120分・3題60問・合計3,680〜4,280語(設問・選択肢込み)→ 31〜36語/分。
- 立教大学(2月11日の独自日程):75分・5大問・約3,000語・マーク33問+記述6問 → 約40語/分。
- 早稲田大学 国際教養学部 Reading:90分・長文3本(各1,200〜1,500語)・13〜14ページ → 40〜50語/分。
- 法政大学 T日程(2026年度):90分・4大問・長文1本1,000語前後を4本 → 約44語/分。
- 成蹊大学 法学部A方式:英語60分・小問20問+物語約2,000語+記事約700語 → 約45語/分。
- 慶應義塾大学 商学部:90分・8大問・約5,200語(設問・選択肢込み)・マーク46問+記述11問 → 約58語/分。
この並びを見ると、「英語が時間内に終わらない」という一言が、大学によって別の話だと分かります。慶應の商学部と文学部では、要求される速度が3倍以上ちがいます。同じ大学の中でも違います。中央大学の文学部と5学部共通選抜はどちらも80分ですが、読む量が1,400語と2,300語超で、必要な速さが1.6倍ちがいます。「英語の速読」とひとまとめにせず、自分の受ける方式の数字だけを見ることが出発点です。
この数字の読み方
注意点が3つあります。一つめ。慶應の商学部とSFCの語数は、設問文と選択肢を含んだ総語数です。選択肢を読む時間も試験時間に含まれるので、こちらのほうが実感に近い数字になります。
二つめ。この平均値には、文法・会話・整序・英作文にかかる時間も入っています。東洋大学は全体で20〜23語/分ですが、読本では文法・会話・整序の3題を合計15分以内で片づけ、長文2題に各18〜20分を残す配分を勧めています。この前提なら長文部分は実効32〜37語/分。平均値の1.5倍です。
三つめ。記述の有無で意味が変わります。慶應文学部の約18語/分には、下線部和訳2問、日本語の内容説明2問、英作文1本を書く時間が含まれます。埼玉大学も長文2題で約1,560〜1,810語に150語の英作文が加わり、読本では長文1題(約750〜950語)を20分前後で読み切る目標を置いています。
学部ごとの違いは大学別の英語の出題を比較した記事もあわせて読んでください。
足りないのは「速さ」か、「決める速さ」か
必要な速さが分かったら、次は切り分けです。原因は大きく2つに分かれます。
- 読む速さが足りない:英文を目で追う速度そのものが遅い。1文ずつ日本語に置き換えている。同じ行を読み返している。
- 決める速さが足りない:読むのは終わっているのに、選択肢の前で止まっている。2つに絞ってから動けない。
対策がまったく違うので、混ぜてはいけません。判定は簡単です。過去問を解くとき、大問ごとに「読み終えた時刻」と「解き終えた時刻」を2つ記録します。読み終わりまでが遅いなら前者、読み終わってから解き終わりまでが長いなら後者です。
後者で止まっているケースは、思っているより多いです。読本の実測からも、そう作られた設問が見えます。
- 学習院大学:各長文の最後に「7択から2つ選ぶ。3つ以上マークしたら0点」という設問が3年間必ず入っています。迷って3つマークすると、その設問は全部消えます。東洋大学にも「三つ選べ(四つ以上マークで無効)」型が毎回1問程度あります。
- 法政大学:言い換え・語義推測型が中心で、選択肢自体が長くなっています。青山学院大学も大問Ⅰの設問が2026年度から疑問文型に変わり、選択肢が長くなりました。語句の照合だけでは決められません。
- 立教大学:誤り箇所の指摘8問と会話文6問の計14問が、マーク33問の4割強を占めます。読解速度とは別の技能です。
「決める速さ」が原因なら、速読の練習では改善しません。必要なのは選択肢の切り方を手順にすることです。東洋大学の読本では、内容一致の選択肢を本文の段落に対応させて一つずつ判定する習慣を勧めています。選択肢の横に根拠のある段落をメモし、根拠が見つからないものから消す。毎回同じ順番でやると迷う時間が減ります。
「読む速さ」に原因がある場合も、中身は語彙・構文・背景知識に分かれます。ここは英語長文が読めない原因の見分け方で詳しく書きました。複数の読本が同じことを指摘しています。知らない話題の1,000語と、知っている話題の1,000語では、かかる時間がまるで違うのです。
順番を変える。捨てる大問を先に決める
速さを上げるのは時間がかかります。いっぽう解く順番を変えるのは、今日からできて効果が数字で出ます。短時間で確実に終わる大問を先に片づけて貯金を作り、重い長文に残り時間を全部渡す。考え方はどの大学でも共通です。
- 東洋大学(60分・45問構成):Ⅲ文法(6分)→ Ⅳ会話(5分)→ Ⅴ整序(6分)→ Ⅰ長文(19分)→ Ⅱ長文(19分)→ 見直し(5分)。冊子の順番どおりに解かないのがポイントです。
- 成蹊大学 法学部A方式(60分):小問20問を先に処理し、長文2題に40分以上を残す。物語約2,000語と記事約700語をその40分で読むので、実効では約68語/分になります。
- 慶應義塾大学 SFC(120分):英語III(1,200〜1,550語+30問)を50〜55分で解き切る。この1題が全体の設問の半分なので、ここだけを切り出して時間を計る演習を勧めています。
- 明治大学 農学部(60分):Ⅲの多義語6問は数分で終わるので先に片づけます。Ⅰ冒頭に固定された発音・アクセント3〜4問と合わせ、配点効率が最高です。
「捨てる大問」は本番で決めない
もうひとつ、足りなかったときにどこを捨てるかを事前に決めておく手段があります。本番でその判断をすると、迷う時間そのものが損失になります。
材料は大問別の配点比重です。慶應義塾大学商学部は読解47%/語彙30%/文法12%/短文読解7%。青山学院大学の文法語法は5問しかなく比重が小さい。中央大学文学部は4大問のうち長文1題に70点、残りが会話語彙30点・整序20点・誤り指摘30点です。
これがあると残り10分の判断が変わります。中央大学文学部なら、長文の設問が残っているならそこへ戻る、長文が終わっていて誤り指摘30点分が白紙ならそちらを埋める。気分ではなく配点で決める基準を、過去問演習のうちに作っておきます。
「捨てる」の反対もあります。そもそも出ない形式に時間を使わないことです。読本の実測では、立教大学の2月11日は自由英作文・整序英作文・発音アクセントが2年とも出題ゼロ、法政大学の英語は分析した17冊すべてで記述ゼロ、慶應の文・法・商では整序英作文が3年間ゼロでした。ここに費やす時間は、そのまま長文演習に回せます。
形式上の禁止事項も先に確認してください。慶應義塾大学商学部のVII・VIIIには「同じ動詞を2回以上選ぶと得点にならない」という規定があります。時間切れ間際の適当な解答が、取れていた分まで消すことがあります。
共通テストと私大で、時間の詰まり方が違う
共通テストのリーディングは80分・8大問(2025年度の新課程で6問から8問に再編)。読本の分析でいちばん大事な指摘は、全問読解型で捨て問がないことです。私大のように「配点の薄い大問を捨てる」手が使えません。
そして詰まる原因が語数ではありません。読本はこう書いています。「速く読む」より「読む回数を減らす」発想が得点を決める。共通テストの英文は「探すために読む」素材で、頭から精読してから設問に向かうのは最悪の手順です。とくに実用文(第1・2・5問)は、設問が指定する情報だけをスキャンすれば足りる設計になっています。
つまり共通テストで時間が足りない人は、同じ資料を2回3回と往復していることが多い。複数の資料をまたぐ大問では、①先に設問を読む、②設問ごとに「どの資料に答えがあるか」を判定する、③食い違いや条件を照合する、という順番を固定すると往復が減ります。時間配分の目安も読本に出しています。前半4問(第1〜4問)を30分前後で抜け、第5〜6問に20分、第7〜8問に25分、残りを見直しに。第1〜3問は素材が短いので、ここで貯金を作って情報量の多い後半に回す設計です。
整理するとこうなります。
- 私大:総語数そのものが重い。慶應商の約5,200語、法政T日程の約4,000語、早稲田国際教養の3,600〜4,500語。読む速度が点数になるタイプで、捨てる大問を配点で決められます。
- 共通テスト:1本の英文は短いが、資料を往復する回数が多い。捨て問がなく、手順の有無で差がつきます。
つまり共通テスト対策と私大対策は、時間の練習としては別メニューです。共通テストの点は伸びたのに私大の過去問で時間が足りない、その逆が起きるのもこれが理由です。残り時間の配分は共通テストまで残り数か月の過ごし方も参考にしてください。
本番までに時間感覚を作る、5つの手順
- 自分の志望校の数字を書き出す。試験時間・総語数・大問数・設問数、そして「語数 ÷ 試験時間」。ノートの見開きの上に書き写します。
- 大問別の所要時間を実測する。過去問を1年分、時間を計って解き、大問ごとに開始時刻と終了時刻を記録します。共通テストの読本も直前期チェックリストに「自分の大問別所要時間の配分表を作ったか」を入れています。作るのは模試のたびです。
- 配分表を作って、順番を決める。実測値と配点を見比べ、解く順番と各大問の持ち時間を決めます。あわせて足りないときに捨てる大問と最後まで残さない大問を1つずつ決めておきます。
- 重い大問だけを切り出して、単独で時間を計る。通しで解くのは負荷が高く、週に何度もできません。慶應SFCの英語IIIを50〜55分、埼玉大学の長文1題を20分前後のように、一番重い1題だけを取り出して回数を増やすのが効率的です。設定時間は配分表の持ち時間そのままにします。
- 設問を先に読む手順を固定する。東洋大学の読本でも共通テストの読本でも、長文は「設問を先に読んでから本文」の順を勧めています。何を探すか決めてから本文に入ると読み返しが減ります。過去問を解くたびに例外なく同じ順番でやると定着します。
2から4は同じ過去問を使って何度も回します。過去問を「実力を測るもの」ではなく「時間配分を作るもの」として使う、という考え方です。詳細は過去問の使い方にまとめています。
順番の変更と手順の固定は比較的早く数字に出ます。読む速度そのものは月単位の積み上げです。先に順番と手順を整えて、そこで残った「まだ足りない分」を速度の課題として扱う。5分足りないのか20分足りないのかで、やるべきことが変わります。
なお、つらさが続くときは抱えたままにせず、学校の先生や保護者の方、専門の相談窓口に話してみてください。
志望校別の出題は大学別の入試対策記事のまとめから探せます。自分の受ける方式の数字を1つ書き出すところから始めてください。
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