「数学が苦手だから文系にしたのに、経済学部では数学を使うと聞いて不安です」。川越校舎でも、ふじみ野・鶴瀬の校舎でも、この相談は毎年あります。
この記事は、経済・経営・商という系統と数学の関係だけに絞って、入試の話と入学後の話の両方を整理します。大学ごとに入試対策読本を自作しているので、過去問冊子を読んで数えた数字を使います。
「経済学部=数学が要る」とは、一律には言えません
先に結論です。経済・経営・商の学部は、入試も入学後も、大学によって数学の扱いがはっきり違います。同じ大学でも学部が違えば違い、同じ学部でも方式が違えば違います。
ですから「経済学部は数学が必要ですか」には答えが出ません。答えが出るのは「◯◯大学の◯◯学部の◯◯方式では数学が要るか」という形にしたときだけです。
入学後の話 1年次に何を学ぶか
自作の進路編の読本では、学部系統ごとに「1年次に学ぶこと」を並べています。経済・経営・商の行に書かれているのは、ミクロ・マクロ経済、簿記・会計、統計、数学の基礎です。主な出口は金融・メーカー・コンサル、会計士・税理士などで、就職先の幅が最も広い系統とされます。
数学の関わり方は一様ではありません。ミクロ・マクロ経済は理論でグラフと変化の量を扱い、簿記・会計は計算ですが微分積分の話ではなく、統計は高校の「データの分析」「確率」「統計的推測」の延長にあります。「数学」とひとまとめにせず、どの部分の話なのかを分けてください。
同じ「経営学部」でも扱いに差があります
同じ読本には、はっきりこう書かれています。同じ「経営学部」でも数学を多用する大学とほとんど使わない大学があり、同じ「情報」でも文系型と理系型がある。だから系統の表は「学部名から中身を想像する」ためではなく、「中身を1校分確かめに行く」ための入口だとされています。
学部名で判断できないなら、確かめるしかありません。解説記事に個別の大学の必修科目は書けません。必ず志望校のシラバスやカリキュラム表で確認してください。
入試の方式が入学後のコースを決める大学もあります
慶應義塾大学の経済学部は、数学で受けるA方式と地理歴史で受けるB方式に分かれています。読本で要項を読むと、A方式の入学者は経済理論・数学を先に学ぶ履修タイプ、B方式の入学者は経済実態・歴史を先に学ぶ履修タイプに入ることが書かれています。A方式とB方式の併願はできず、出願時にどちらか一方を選びます。
つまりこの学部では、「入試で数学を使うか」と「入学後に数学から入るか」が同じ選択になっているわけです。こうした仕組みは大学ごとに違うので、要項の該当箇所を自分で読んでください。
入試の話 数学で受けられる入口と、数学が必須の入口
同じ「経済系の数学」でも、配点・時間・範囲・解答形式・大問構成がまったく違います。
慶應義塾大学 経済A方式・商A方式
- 経済学部A方式:数学は150点/80分、大問6題。範囲は数学Ⅰ・Ⅱ・A・B・Cで数学Ⅲは範囲外。冊子には、[1]〜[3]が先に採点され、[4]〜[6]は数学と英語の最初に採点される部分が一定点に達した受験生だけ採点されると明記されています(3年とも同文)。[1]〜[3]がマーク、[4]〜[6]が記述という分かれ目も3年間不変。募集400名で、地歴で受けるB方式200名の2倍です。
- 2027年2月実施分から:大学の公表文書により小論文が休止され、A方式の数学は200点/100分に拡大。3科目420点満点から2科目400点満点になり、数学1科目の重みが上がります。
- 商学部A方式:数学は100点/70分、大問4題、マーク主体に一部記述で解答欄62〜73個。範囲が4単元に限定され、数学Aから「図形の性質」「場合の数と確率」、数学Bから「数列」、数学Cから「ベクトル」だけです。新課程の2年度ともこの限定は守られ、整数の性質・複素数平面・統計的推測・数学Ⅲは出ていません。
- 商学部B方式は数学ではなく論文テスト(100点/70分)です。
なお商学部A方式では、新課程になってデータの分析が復活し、2年度とも大問Ⅰの最初に置かれていました。
青山学院大学 経済学部B方式
経済学部B方式の数学は、2023・2024年度が4大問(Ⅰ〜Ⅲマーク+Ⅳ記述)、2025年度から5大問(Ⅰ〜Ⅳマーク+Ⅴ記述)に変わりました。B方式全体の頻出は、微分積分(Ⅱ)3/3、図形と計量3/3、場合の数・確率3/3、数列3/3、図形と方程式3/3です。
特徴が二つあります。2025年度から「統計的推測」が独立した大問Ⅲとして登場したこと(母比率の信頼区間、必要な標本サイズ、確率変数の1次変換という教科書レベルの3点)。もう一つは、大学が記述の採点観点を公表していること。「どのような論理展開を行っているか」「時間的制約の中で適切な解法を選択できたか」、そして答案の書き方の工夫まで見るとされています。問題文に「答えに至る過程を記述すること」と明記された年度もあります。
2027年度からの変更も大きいところです。経済学部の個別学部日程は、経済学科がA方式(外国語150+地歴公民100+数学60分100=350点、約60名)、B方式(外国語150+数学90分150=300点、約100名)、C方式(外国語150+地歴公民100=250点、約120名)の3本に。現代経済デザイン学科はA方式(約40名)とB方式(約35名)だけでC方式が設定されず、英語と地歴公民の2教科型が消えます。個別学部日程の募集約355名のうち、数学が必須の方式が約235名で過半数です。新A方式の数学は数学Ⅰ・Ⅱ・A・B・C(ベクトル)の範囲で、大学は「教科書の章末問題レベルを中心」「マークシート形式」と明記しています。
中央大学 経済学部・商学部
中央大学の経済学部Ⅰ・Ⅱと商学部A・Bでは、選択科目として日本史・世界史・政治経済・数学が実施されます。数学は必須ではなく、選べる入口です。どちらも60分100点ですが中身が違います。
- 経済学部Ⅰ・Ⅱ:3大問(36点・32点・32点)の記述。ただし大問Ⅰの小問集合は「結果のみ記入」で途中式は不要。大問Ⅰ=小問集合5〜6問(36点)が5/5で定位置、経済Ⅰは大問Ⅲ=微分積分(Ⅱ)が3/3です。
- 商学部A・B:4大問(25点×4)で全記述。大問Ⅳ=場合の数・確率が4/4で固定。1題15分の計算になります。
文系17冊・59大問の分野別頻度は、微分積分(Ⅱ)12、場合の数・確率11、図形と方程式9、数列8、図形と計量6、ベクトル5、指数対数4。統計的推測は3年間・全22冊でゼロでした。統計的推測を出す大学と出ていない大学がある、ということです。
数学で受けるなら、どの単元から手をつけるか
- 場合の数・確率。慶應の文系4学部12冊すべて、中央の商学部は大問Ⅳで4/4、青山学院の経済B方式は3/3。条件付き確率・期待値・確率漸化式まで。落として得をする入口が見当たりません。
- 微分積分(Ⅱ)。3次関数の接線・極値・面積、絶対値つき定積分。中央の文系で17冊中12、青山学院の経済B方式で3/3、慶應の経済A方式では記述の最終問に3年とも置かれていました。
- 数列・図形と方程式・ベクトル。慶應文系は数列11/12、中央は数列8・図形と方程式9、青山学院の経済B方式は両方3/3。慶應の経済A方式は記述に空間ベクトルが3年とも1題入ります。
- 統計的推測は志望校次第。青山学院の経済B方式では優先度が高く、慶應の文系4学部と中央の文系ではゼロでした。
「数学が苦手」を4つに分解する
「数学が苦手」のままでは、何をすべきかが決まりません。進路編の読本では、過去問を解いたあとに「知らなかった/使えなかった/時間切れ/ミス」のどれで落としたかを記録します。同じ考え方で、苦手を4つに分けます。
- ①計算が合わない。式は立つが答えが合わない。対処は、途中式を省かずに書き、計算の型(分数、展開、平方完成、和の記号)を1日10分ずつ手で回すことです。
- ②何をしているか分からない。式の意味が取れない。対処は定義に戻ること。微分なら「変化の割合」、ベクトルなら「向きと大きさを持つ量」と、教科書の定義を声に出して読み直します。
- ③時間がかかる。解けるが終わらない。これは量の問題です。中央の商学部は4大問で1題15分、慶應の商学部A方式は70分で解答欄62〜73個。1題あたり・1解答欄あたりの時間を先に計算して、その時間で止める練習をします。
- ④中学範囲から崩れている。正負の数、分数、比、一次方程式、文章題で止まる。対処は戻ることだけ。崩れている箇所は数個に限られることが多いので、まずどこが崩れているかを特定します。
この4つは対処がまったく違います。どれなのかを決めずに「数学をやる」と言っている間は、時間が減るだけで点は動きません。見分け方は、過去問や模試の答案を1枚持ってきて、落とした設問1つずつに①〜④の番号を振ること。つらさが続くときは、学校の先生や保護者にも早めに相談してください。
入学後に困らないために、高校のうちにどこまでやるか
個別の大学の必修科目は書けませんが、先の4つの並びから、高校の単元名で対応をつけられます。
- 統計に効く:数学Ⅰ「データの分析」(平均・分散・標準偏差・相関係数)、数学A「場合の数と確率」、数学B「統計的推測」。
- 経済理論に効く:数学Ⅱ「微分積分」と「図形と方程式」。グラフを読み、傾きと面積で量を扱う練習と、グラフの交点を連立方程式で出す作業です。
- 会計・計算に効く:中学範囲の比と割合、一次方程式、連立方程式。数学Ⅱ「指数対数」も増え方の計算で使います。
入試で数学を使わない場合でも、数学Ⅰ・Aと数学Ⅱの微分積分までは教科書の例題レベルを一周しておく。これだけで入学後の初速が変わります。ただし、どの科目が必修でどの程度の数学を使うかは大学ごとに違うので、シラバスやカリキュラム表で必ず確認してください。
数学を使わずに経済系に進む入口と、そのときの準備
- 慶應義塾大学の経済学部B方式は地理歴史(世界史・日本史の2択、1500年以降が中心という限定つき)、商学部B方式は論文テストです。商学部の地歴には地理も選べます。
- 中央大学の経済学部・商学部は、選択科目を日本史・世界史・政治経済から選べます。商学部の英語外部試験利用方式は、確認した年度ではスコアが出願資格としてのみ使われ、国語100点+選択科目100点の200点で合否が決まる仕組みでした。
- 青山学院大学は、2027年度からの経済学科C方式が外国語150+地歴公民100の2教科型です。ただし現代経済デザイン学科にはC方式がありません。
ただし、数学を避けて出願しても計算から逃げられるわけではありません。中央大学の政治・経済を3年分15冊で数えると、計算問題が出たのは経済学部ⅠとⅡだけで、共通選抜・法学部別・商学部は3年間ゼロ。経済Ⅰは年によって2〜4問、経済Ⅱは1〜2問です。需給均衡の連立方程式、GDPと経済成長率、信用創造、単利と複利、為替換算、ジニ係数と再分配改善率など。難しさ自体は中学数学の水準ですが、電卓なしで正確に処理する訓練が要ります。
数学を使わない入口を選んだ場合の準備は「数学をやらない」ではなく、中学範囲の計算を速く正確にする、グラフと表を読むという形に置き換わるということです。
志望校を決める前に確認する手順
- 系統を2つまでに絞る。3つ以上あるうちは絞れていません。
- 募集要項で、方式ごとの科目と配点を書き写す。数学があるか、必須か選択か、範囲はどこまでか(数学Ⅲや単元限定があるか)、配点と時間。ここで数学の有無が確定します。
- カリキュラム表で1年次の必修科目の一覧を1枚読む。数学・統計の名前がついた科目があるか、必修か選択かを見ます。進路編の読本でも、この1枚は「必須の調べ物」です。
- 方式が入学後のコースに結びついていないかを確認する。慶應の経済学部のような仕組みの大学もあります。
- 過去問を1年分、時間を計って解く。取れた・取れなかったではなく、①〜④のどれで落としたかを記録します。
入試制度・方式・配点は毎年変わります。この記事の数字も読本を作った時点のものです。最終確認は必ず、その年度の募集要項と大学の公表資料で行ってください。
高1・高2でやっておくこと
- 高1:系統に2つまで印をつける。経済・経営・商が入るなら、数学Ⅰ・Aの「データの分析」「場合の数と確率」を定期テストで落とさないこと。入試でも入学後の統計でも使い道があります。
- 高2前半:受験科目を決めます。「数学で受ける可能性を残すか」をここで決めておくと後が楽です。残すなら数学Ⅱの微分積分まで教科書の例題を一周。
- 高2後半:候補の大学の過去問を1年分、解けそうな科目だけでも解く。大問構成と時間配分を見るだけでも意味があります。カリキュラム表も1校分読む。
- 通年:中学範囲で崩れている箇所は、高3になる前に直す。ここだけは後回しにすると効きません。
EIMEI予備校では、その大学の数学がどう出るか(範囲・大問構成・解答形式・定位置の単元)を読本の分析で確認しながら、今週やることまで一緒に決めます。数学で受けるか地歴で受けるか迷っている段階でも始められます。
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