この記事は、国語の漢字・語彙の勉強をどこまでやるべきか迷っている高校生・既卒生と、その保護者の方に向けて書いています。配点は大きくないのに、やり始めると時間を食う。かといって完全に捨てると、独立した大問がある大学では取り返しがつかない。この迷いを、志望校の出題数から決める手順に置きかえます。
EIMEI予備校では大学ごとに入試対策読本を自作していて、過去問を年度・日程・学部ごとに数え直しています。この記事の数字はその集計から出したものです。
まず、志望校で漢字・語彙が何問出るかを数える
「漢字はやるべきですか」に一般論で答えることはできません。同じ大学の中でも、学部によって出方がまるで違います。実際に数えた例を並べます。
明治大学 ― 学部で「独立大問あり」と「小問だけ」に分かれる
明治の国語は学部ごとに別問題です。2024〜2026年度の学部別入試の冊子を数えると、こうなりました(法・商・政治経済は試験時間60分・配点100点で、この3学部だけで9冊)。
- 政治経済学部:評論1題+評論または随筆1題+古文1題+漢字・語彙の独立大問1題の4大問で、3年とも同じ構成。設問は30〜31問です。4つある大問のうち1つが、まるごと知識問題です。
- 農学部:漢字書き取り1題+漢字読み1題+現代文評論1題+古文1題の4大問で、3年とも完全に固定。4大問のうち2つが漢字で、記述は漢字6〜8問と現代語訳1問です。
- 法学部:評論2題+古文1題の3大問、31〜34問。漢字の独立大問はありませんが、記述として書き取りと読みが毎年出ます。
- 経営学部:現代文評論1題+古文1題の2大問。記述は漢字1字・仮名1字の小問だけで、扱いは軽いほうです。
同じ明治でも、政治経済学部と農学部を受けるなら漢字はまとまった得点源で、経営学部を受けるなら小問1つ分です。読本では、漢字・語彙を法・商・政治経済の最優先項目に置いています。
立教大学 ― 記述3〜6問のうち2問が漢字
立教の全学部日程(2月6日・8日・9日・12日・13日)は、確認した11冊すべてで現代文2題+古文1題、試験時間75分でした。国語の配点は学部によって100点から200点まで差があります。
記述は毎年3〜6問しかなく、その型はほぼ固定されています。大問一に20〜40字の説明記述が1問、大問二の冒頭でカタカナを漢字に改める問題が2問(楷書指定)、大問三の古文で3〜10字以内の現代語訳が1問。このカタカナを漢字に直す記述は、11冊中10冊で2問出ています。さらに2025年度以降は「大問一の漢字はマーク式(同じ漢字を含むものを選ぶ)、大問二の漢字は記述式」という役割分担が定着しました。
数の少ない記述のうち2問が漢字です。ここを落とすのは痛い。
学習院大学 ― 年度で独立大問が出たり消えたりする
学習院の国語9冊を並べると、漢字の扱いが年度で動いていることが見えます。法学部コア系(100点満点)は、2024年度が現代文65点+古文35点の2大問、2025年度が漢字10点+現代文55点+古文35点の3大問、2026年度はまた現代文65点+古文35点の2大問。経済学部コア系(120点満点)も同じ動きで、2025年度だけ漢字が独立大問10点になりました。
大学自身が公表資料の中で「漢字は標準レベルの能力があれば解答可能なレベル」と書いています。差をつけるための問題ではない、と大学が言っているわけです。
漢字が「取れて当たり前」の大学と、そうでない大学
ここまでの数字を、扱いの違いに翻訳します。
- 独立大問がある大学(明治の政治経済・農、学習院の2025年度型)では、漢字は「取れて当たり前」の位置にあります。知識問題なので迷う必要がなく、時間もかかりません。読本では明治の政治経済学部について、漢字・語彙の大問を最初の3分で片づけると決めておくよう書いています。60分のうち3分を投じて、残り57分を3つの読解と50字記述に配る設計です。政治経済学部の合格最低点から逆算した国語の目標は100点満点で80点前後ですから、余裕はありません。
- 小問だけの大学(明治の経営、学習院の2024・2026年度型)では、漢字は「1〜2問落としても致命傷にならない」位置です。ここに勉強時間を積むより、読解に回したほうが点になります。
- 記述で毎年決まった数が出る大学(立教)は、その中間です。数は少ないが、確実に出る。だから「最低限やる」の対象になります。
もうひとつ、立教が公表している出題意図を見てください。「語彙問題、文法問題のいずれも、覚えている知識を単純に問うのではなく、傍線部の前後あるいは文章全体の文脈や展開をふまえて、的確な正解を選ぶことのできる読解力を必要とする問題とした」とあります。語彙問題は知識だけでは取れない、というのが大学側の設計です。これが、漢字と語彙を分けて考えるべき理由になります。
やる/最低限にするを、志望校の出題数から決める手順
- 志望校・志望学部の過去問を3年分開き、漢字・語彙の設問だけを数える。「何問あるか」「独立大問か、読解の中の小問か」「書き取りか、読みか、選択式か」の3つを表にします。解く必要はなく、数えるだけなので30分で終わります。
- 配点に占める割合を出す。配点が明示されていればその点数を満点で割り、明示されていなければ設問数で代用してかまいません。
- 基準に当てる。独立大問がある、または記述の書き取りが毎年2問以上ある場合は「やる」。選択式だけ、あるいは小問1〜2問にとどまる場合は「最低限」。
- 併願校もまとめて見る。1校だけで決めないでください。受ける学部のうち1つでも独立大問があるなら「やる」側に寄せます。漢字は併願先をまたいで効く、数少ない分野です。
「みんなやっているから」で決めるのではなく、自分が受ける問題冊子で決まります。
「やる」と決めた場合の進め方と、時間の上限
漢字は伸びしろが小さいぶん、かけすぎたときの損が大きい分野です。だから先に上限を決めます。
- 1日10分、20〜30語。これ以上には増やしません。増やすと他が削れます。
- 書き取りは手で書く。目で見て「知っている」と思った字は、書くと崩れます。学習院のように記述用の解答用紙を併用する大学では、過去問演習でも抜き出しは指定字数ちょうどで書き、漢字は実際に書く、という形にそろえてください。
- 確認は週1回、間違えたものだけ。できた字をもう一度やる必要はありません。ノートの左に読み、右に書き取りを並べ、間違えた行に印をつけて、翌週はその行だけ見ます。
- 高3なら11月末までに1周。12月以降は新しく増やさず、印のついた行だけを回します。
- 上限は「国語の勉強時間の1割まで」。1日15分を超えたら、それは漢字ではなく読解の課題を漢字で隠しているサインとして扱ってください。
もうひとつ。漢字を書く練習は、国語だけの話ではありません。学習院は日本史の記述に「漢字5文字で」「漢字2字で」という指定を毎年入れており、大学は公表資料で「『平等院鳳凰堂』や『梁塵秘抄』と書くべきところで『鳳凰』や『梁塵』の漢字が書けていないケースが見られました。記述式解答の場合には、漢字が正確に書けないと得点には至りません」と書いています。国語の漢字に30分使うより、社会の用語を手で書く30分のほうが点になる人は珍しくありません。
語彙は漢字と別物。こちらは優先度が高い
漢字は「書けるかどうか」の問題ですが、評論用語・抽象概念の語彙は「本文が読めるかどうか」の問題です。読めなければ設問全部に響くので、優先度が変わります。
私大の現代文評論205題の主題を分析したところ、評論が読めない原因は語彙力でも解き方でもなく、本文が前提にしている「考え方」を知らないことである場合が多くありました。そこで繰り返し現れる概念語は、たとえば次のようなものです。
- 贈与と交換(「あげる」と「売る」はなぜ違うのか)。中央大学2025年度、青山学院大学2024年度、早稲田大学2026年度で扱われました。
- 障害の医学モデルと社会モデル(障害は本人の身体にあるのか、社会の側の設計にあるのか)。
- 効率性と公平性(経済思想の対立軸)。
- さわるとふれる(身体論。中央大学2025年度、立教大学2023年度)。
- 有機性と非有機性(青山学院大学2024年度、早稲田大学2026年度)。
- 「終焉」と「過剰」(民主主義の危機を、弱すぎると見るか求めすぎと見るか)。
- 使用価値・交換価値と記号価値(消費社会論)。
立教の読本で「先に固める」の4番目に置いたのも、近代批判系の評論語彙です。具体的には直観と理知、円環的時間と直線的時間、包摂と排除、生理現象と社会的規範。立教の大問二は11冊すべてが硬質な評論で、デザイン論、政治哲学(自由論)、社会思想(時間意識)、民俗学(死生観)、社会学(睡眠論)と並びます。この手の文章は、語が分からないと段落の役割ごと見えなくなります。
評論用語は「意味を覚える」のではなく「対の言葉とセットで覚える」
上に並べた語に気づいたでしょうか。ほぼすべてが2つで1組です。評論は対立軸を立てて論を進めるので、片方だけ覚えても使えません。手順にします。
- ノートの1行を左右に割り、対の語を書く。「贈与/交換」「医学モデル/社会モデル」「効率/公平」のように、1行1組です。
- その下に、違いを一文で書く。「交換は払った時点で関係が終わる。贈与は返す義務が残るので関係が続く」。定義の丸写しではなく、違いだけを書きます。
- 「誤読しやすい点」を一言そえる。贈与なら「無償の善意ではない。お返しの義務がある」。権力なら「禁止や抑圧の力ではなく、人の行動や知識を作り出す力として論じられることが多い」。ここが、本文の逆説を読み落とさないための保険になります。
- 筆者がどちら側に立っているかを、過去問で確かめる。本文中では片方が批判されていることが多く、どちらが批判対象かを見分けられれば、選択肢の切り方が変わります。
- 次に読む評論で、その語が出たら対の語を探す。片方が出てきたら、もう片方が近くにあるか、隠れていないかを探す。これが定着の確認になります。
覚える量は多くありません。1週間に2〜3組で十分です。漢字と違って数で押す分野ではなく、1組ずつ理解して増やしていく分野です。
古文の語彙は、現代文の語彙と別に考える
古文の語彙は、現代文の評論用語とは量も覚え方も違います。量は限られていて、覚える対象もはっきりしています。ただし単語だけを覚えても点になりません。
立教の国語で「先に固める」の1番目は、平安から鎌倉の古文の、助動詞の意味と活用、敬語による主語判定、和歌の掛詞・枕詞・縁語です。11冊すべてで大問三を占め、設問数も最多でした。明治も法・商・政治経済の3学部とも古文1題が必出で、敬語・助動詞の基本が最優先項目です。古文は、語の意味より文法と敬語で主語を決める作業が得点の中心になります。
覚え方も違います。学習院は学習法として、その日に予定されている古文の範囲を前もってノートに書き出し、現代語訳を作成することを勧めています。単語を単独で回すのではなく、本文ごと訳す形です。加えて学習院の古文は文学史が9冊すべてで最後に必出なので、作品を作者と時代で整理しておけば、知識で取れる配点が残ります。
直前期に漢字・語彙をどう扱うか
- 新しく増やさない。12月以降に手をつけるのは、印のついた間違いだけです。
- 本番の解く順序に組み込む。明治の政治経済学部なら、漢字・語彙の大問を最初の3分で片づけると決めて、過去問でもその通りに解きます。順序を本番で考えるのがいちばんの損です。
- 表記の指定を守る練習をする。立教の漢字記述は楷書指定です。学習院は、字数指定や漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベット略称などの指定を無視した解答は不正解になると公表しています。字数が合わなければその答えは違う、と割り切って絞る訓練をしておいてください。
- 評論用語は、過去問で出会った語だけを足す。解いた文章で詰まった語を、上の5手順で1組ずつ足していきます。
やらなくていいこと3つ
- 分厚い一冊を、最初のページから全部やること。志望校の出題が小問1〜2問なら、その一冊は最後まで使いません。出題形式(書き取りか、読みか、選択式か)に合う範囲だけを抜き出して回します。
- 読みまで完璧にすること。読みが出るかどうかは学部で違います。明治の法学部と農学部は読みも毎年出ますが、書き取り中心の学部もあります。3年分を数えて、出ない形式は切ってかまいません。
- 評論用語の「意味だけ」を暗記すること。対の語と、その違いを一文で言えない状態で意味を覚えても、本文では使えません。立教の出題意図が示すとおり、語彙問題そのものが文脈で判断させる設計になっています。
漢字・語彙は、やるかやらないかで悩む分野ではありません。志望校の問題冊子を3年分数えれば、どちらかに決まります。決まったら上限を守って回し、空いた時間を読解に返す。それだけです。
あわせて読みたい
- 現代文の勉強法:読解の手順から組み立て直したい人へ。
- 現代文の抽象概念:この記事で挙げた概念語を、テーマごとに詳しく。
- 現代文の点数のブレ:文章によって点が動く原因の見分け方。
- 古文が読めない原因:語彙ではなく文法・敬語で止まっている場合。
- 明治大学の学部別の傾向:国語の大問構成が学部でどう違うか。
- 社会の暗記が定着しない:用語を漢字で正確に書く練習について。
EIMEI予備校について
EIMEI予備校は川越・ふじみ野・鶴瀬の3校舎で、大学受験の1対1個別指導をしています。中高一貫校の中学生から、高校生・既卒生までが対象です。大学ごとに入試対策読本を自作していて、志望校が決まっている人には、その大学の出題に合わせて何をどの順番で進めるかを一緒に決めていきます。
- 川越校舎(2026年6月開校)川越駅から徒歩5分、本川越駅から徒歩8分。自習室は朝7時から使えます。
- ふじみ野校舎 ふじみ野駅東口から徒歩1分。
- 鶴瀬校舎 鶴瀬駅西口から徒歩3分。
川越校舎の詳細・無料体験のお申し込みはこちら/ふじみ野・鶴瀬校舎のことは公式LINEからお問い合わせください。
