こんにちは、EIMEI予備校の二神です。
この記事は、川越とその周辺の高校に通う高校生・浪人生で、「漢字も語彙帳もやったのに、評論になると急に読めなくなる」という人に向けて書いています。
結論から書きます。評論が読めない原因は、知らない単語があることではありません。本文が前提にしている「考え方」を知らないことです。たとえば「障害」を論じる文章は、「障害は個人の身体にあるのではなく、社会の側の設計にある」という前提を共有していないと、後半の具体例が何のために置かれているのか分からなくなります。一語一語の意味は分かるのに、段落のつながりだけが分からない。その正体がこれです。
EIMEIでは、この穴を埋めるために『現代文 抽象概念の予備知識』という読本を自作しました。頻出だから選んだのではなく、知らないと本文そのものが読み取れないから選んだ20の概念をまとめたものです。この記事ではそこから対立軸を15本取り出し、出る文脈・言い換え・誤読パターンで整理します。読み方の技術は別記事にあります(現代文の勉強法|選択肢の切り方と、記述で点になる書き方)。
抽象概念の「わかりにくさ」は4種類だけ
- 見慣れた言葉の学術的な意味|「ケア」「贈与」「他者」のように、日常語と同じ形なのに、専門的な議論の蓄積を背負っている語。
- 通説と実際の議論の食い違い|評論は常識を疑うところから始める。常識の側で読むと筆者と反対の結論を選びます。
- 対立する2つの立場|終焉論と過剰論、医学モデルと社会モデルのように、片方だけ知っていると誤読する構図。
- 具体例なしの抽象論|「概念は歴史的に構築される」のような主張は、具体例とセットでないと実感できません。
3つめの配当がいちばん大きいです。評論はたいてい対立軸のどちらかに立つので、軸を知っていれば、筆者がどちら側かを判定するだけで論の向きが決まります。
材料は中央・早稲田・法政・明治・立教・青山学院・学習院・東京電機・東洋の9大学、現代文(評論)205題。2018〜2026年度のうち2024〜2026年度だけで178題(86%)です。
身体と関係の4軸
1|モノとしての身体/経験としての身体
医療・介助・教育の文脈。身体を計測できる客体として読むか、本人にしか成り立たない一人称的な経験として読むかで論の向きが真逆になります。言い換えは「操作される対象」対「他者と分かち合う経験の場」。誤読するのは「さわる」と「ふれる」を同じ意味で読むとき。この種の評論では、さわるは相手を情報として処理する一方的な接触、ふれるは共鳴と信頼を生む通路として正反対に置かれます。2語が並んだら対比を疑ってください。
2|交換/贈与
売買は対価の支払いと同時に関係が清算され、以後の関係を残しません。贈与は無償に見えても「与える・受け取る・お返しする」という義務的な連鎖を生み、関係を継続させます。言い換えは「交換は関係を終わらせる渡し方、贈与は関係を続けさせる渡し方」。誤読は贈与を「無償の善意」と決めつけることで、贈与論では贈与は拘束力の強い社会制度です。意図して行う善行は見返りを期待した交換に近づくという逆説が、利他論の結論部でも効いてきます。
3|自立/依存・脆弱性
ケア・医療福祉・家族の文脈。「自律した独立の個人」という前提そのものを疑い、人間は他者に依存し他者をケアする関係の中でしか生きられない、という出発点に立ちます。言い換えは「自立が基本形」対「依存が基本形、自立は一時的な状態」。誤読は「脆弱性」をただの弱さと読むこと。脆弱性は克服すべき欠陥ではなく人間の条件であり、そこから相互の責任が導かれます。
4|理解できる他者/わかりあえない他者
他者・共同性の文脈。「理解しよう」と呼びかける文章に見えて、「他者は完全にはわかりえない」という前提から出発する議論のほうが本流に近い場合があります。言い換えは「わかりあえなさは関係を諦める理由ではなく、関係を始める理由」。誤読はこれを悲観論と読むこと。もう一つの型が単独行為不可能性で、自転車を漕ぐ行為も道具や道路がなければ成立しない点から、主体を「われわれ」として捉え直し、価値を「できなさ」に見ます。
権力と情報の4軸
5|禁止する権力/作り出す権力
監視・学校・規範の文脈。権力は上から下への禁止・抑圧の力ではなく、人の行動や知識や主体そのものを作り出す生産的な力として扱われます。言い換えは「奪う力」対「つくる力」。誤読は「権力=弾圧」の前提で読むこと。注目されるのは命令する者が不在でも機能する権力で、パノプティコンの収容者は見られているか確認できないため監視者がいなくても自らを律します。「規律」「規範」「内面化」が出たら、強制する側が見えなくても権力の話だと疑ってよい。
6|情報が希少/関心が希少
SNS・アルゴリズム・生成AIの文脈。希少なのは情報ではなく受け取る人間の関心であり、関心自体が商品として取引されます。言い換えは「情報が多いほど自由に選べる」対「情報が多すぎるからこそ、関心を先に奪った者が結果を左右する」。誤読は情報化社会を単に「便利になった社会」と読むこと。古典的な参照点が疑似環境(人は現実ではなく頭の中のイメージを介して行動する)で、それがアルゴリズムに自動で作られるのがフィルターバブルです。
7|計算できる/理解している
AI論。計算能力の向上がやがて人間の知能を超えるとする立場と、記号操作としての計算と意味を理解することは原理的に別物だとする立場が対立します。言い換えはシンタックス(形式的な記号操作)/セマンティクス(意味内容)で、この対比が出たら後者の文章です。誤読は「複雑な応答ができる=理解している」と等値すること。あわせて「生命体は情報のフィードバックで自らを制御するシステムである」を比喩と受け取らないこと。生物・機械・社会を貫く共通の理論的枠組みとして出された主張です(サイバネティクス)。
8|見えるもの/見えないもの
写真論・表象論。この種の評論は「何が写っているか」ではなく「写真によって何が見えなくなるか」を論じます。言い換えは「それはかつてあった」——写真は原理的にレンズの前に実在したものしか写せず、そこに証拠としての重みが生じます。誤読は被写体の意味を読み解く議論だと思い込むこと。後半で「不在」「空白」が主題化されて置いていかれます。ストゥディウム(習慣的な関心)とプンクトゥム(細部が見る者を不意に突き刺す刺激)の対比も覚えてください。
社会と正義の3軸
9|医学モデル/社会モデル
障害・合理的配慮の文脈。医学モデルは障害を個人の身体的特徴とみなし治療や訓練で克服すべき問題と扱い、社会モデルは障害を作り出しているのは社会の側の障壁だと考えます。言い換えは、建物が使いにくい原因を身体機能に求めるか「段差がある」「エレベーターがない」という環境に求めるか。誤読は「社会が悪い、本人は悪くない」という図式だけを覚えること。社会モデルは医学的支援を否定せず、原因の所在をどこに置くかという立場の違いです。判別の近道は、本文の「配慮」が本人の努力を求める文脈か、社会の側の変更を求める文脈かを見ること。
10|格差は結果か装置か/効率か公平か
格差・階級・社会保障・市場の文脈。まず、格差を「所得分布の統計的な偏り」と読むか、「それを生み出し、正当化し、あるいは覆い隠す社会的な装置」と読むか。後者が標準で、統計的な事実として読むと議論の芯を外します。次に、再分配を論じる文章は「自由か平等か」の二択ではありません。功利主義は、貧しい人に与えるほうが幸福の総量を増やす(限界効用逓減)として平等な分配に寄りますが、無制限な再分配論ではありません。格差原理は、不平等が許容されるのは最も不遇な人々の境遇を改善する場合に限られるという条件つきの容認。自生的秩序論は、必要な情報は市場の個々の取引を通じて初めて明らかになるとして中央計画を批判します。判別の近道は、政府の役割を結果に介入する「監督者」と見るか、ルールだけを見守る「審判」と見るかです。
11|民主主義の「終焉」論/「過剰」論
「民主主義の危機」が「弱すぎるから」なのか「求めすぎるから」なのかで正反対の立場があります。終焉論は、民主主義が資本主義に従属させられ、市民が新自由主義的な政策を支持して格差が拡大し、民主主義自体の力が削がれていくとする立場。過剰論は、人々が政府に私的な欲求の充足を過剰に求め、公共心が衰退し、強い権力者を求める心性が独裁へ帰結しうるとする立場です。片方しか知らないと主張を逆向きに取り違えます。
文化と歴史の4軸
12|使用価値/記号価値
消費社会論。これを個人の浪費癖の問題として読むと骨格を取り違えます。商品は使用価値・交換価値だけでなく記号価値という第三の次元を持ち、私たちは商品を使うためではなく他人との差異化のために買っている、という見方です。同じ機能の時計でも価格やブランドが「持つ人の格」を示す記号として働きます。誤読は「消費=浪費=批判の対象」という思い込み。核心は両義性で、消費が自由の手段になり得る一方、同じ仕組みが格差を固定化してもいるのです。
13|自然な区分/歴史的に構築された区分
美術・芸術・人間と動物の境界・翻訳語。この軸が最も多くのテーマに顔を出します。言い換えは「昔からあった」対「ある時代に、誰かによって作られた」。誤読は「昔から絵画があったのだから美術という言葉も昔からあったはずだ」という思い込みで、作品自体は江戸時代以前からあっても、それを制度的カテゴリーとして「美術」と呼び国家や教育制度に位置づける枠組みは明治期以降に作られたものです。「何が排除されたか」という論点が出たら制度批判の文章です。人間と動物の境界も、境界がどう作られ引き直されてきたかを問う同じ構えで読めます。
14|歴史は発見か/構成か
歴史学・史料・物語。歴史学は史料さえあれば自動的に「正しい歴史」が得られる学問ではなく、同じ史料でもどこを重視しどんな文脈に置くかで歴史像は変わります。言語論的転回以降、歴史的知識は選別と解釈を伴う創造的な物語構成だとされ、プロット化(ばらばらの出来事に始まり・展開・結末を持つ筋を与える作業)が論点になります。誤読は「歴史は物語である」を「事実など存在しない」と同一視すること。正しい線は「事実は複数の物語のしかたを許すが、事実そのものが自由に作れるわけではない」です。
15|対話は善/対話の形が問題
ジェンダー・マイノリティ・多様性。「対話」や「理解」を無条件によいことだと思って読み進めると読み違えます。問題は対話そのものではなく対話のかたちです。鍵語がシーライオニング——一見丁寧な問いかけを装いながら、当事者に絶えず説明や証明を求め続ける態度。問いかける側が「理解しようとしている」つもりでも、受け手には尋問に近い負担になりうるという非対称性の指摘です。一見中立な態度に一方だけの負担が潜む、という共通形です。
覚え方|1軸を4行にする
概念は文章では覚えられません。次の4行に落としてください。
- 対立軸をAかBかの形で1行(例|交換/贈与)
- どんな語が出たらこの軸かを1行(例|「贈与」「お返し」「純粋贈与」)
- 自分が実際に間違えた読み方を1行(例|贈与=無償の善意と読んだ)
- 言い換えを1行(例|交換は関係を終わらせる渡し方、贈与は続けさせる渡し方)
ルールは3つ。3行目は必ず自分の言葉で書く(他人の誤読を写しても効きません)。4行目に専門用語を使わない(時計の例のように、具体物で言えたら合格)。1枚=1軸。復習は作った週に1回、翌週に1回、その後は月1回。回数より読んだ評論と結びつけた回数が効きます。
読んだ評論をストックする手順|5ステップ・1本10分
- 出典を書き写す|著者名・書名・大学・年度・学部。同じ本が別の大学でも出ますが、抜粋箇所が違えば論点はまるごと変わるので「どの論点か」まで添えます。
- 対立軸を1つ特定する|「この文章はAとBを対立させていた」を1行。該当する4行カードの余白に大学名と年度を足します。カードが増えるのではなく、既存のカードに事例が貯まるのが正しい状態です。
- 筆者がどちら側かを書く|「筆者はB側に立ってA側を相対化していた」。大半がこの形です。
- つまずいた1文を抜き書きする|段落ではなく1文。読めなかった理由を語彙/構文/前提知識に分類し、前提知識に入った1文が次に埋めるべき穴です。
- 100字で要約する|対立軸と筆者の立場を含めて100字。要約が書けないときは読めていないのではなく、対立軸を取り違えています。2に戻ってください。
頻度は週2本、1本10分なので週20分。3か月で約24本貯まります。あわせて志望学部の分野に寄せてください。文学部・人間科学系なら身体・ケア・他者、法学部・政治経済系なら権力・格差・民主主義、情報系ならアテンション・エコノミーとAI論。20の概念を均等に埋めるより、志望に近い5つを深くするほうが得点になります。形式は学部と方式で変わるので、中央大学・早稲田大学・青山学院大学の入試対策読本の記事もご覧ください。
川越で、概念の穴をどう埋めるか
ここまでの手順は一人でもやれます。つまずくのは2点です。1つは「前提知識が足りなかったのか、読解の手順が足りなかったのか」の切り分け。要約が書けないと多くの生徒は語彙帳に戻りますが、実際には対立軸を取り違えていただけ、ということがよくあります。もう1つは4行カードの言い換えの検算で、専門用語を別の専門用語で言い換えただけの説明は自分では気づけません。EIMEI予備校では、この2つを1対1の個別指導で扱っています。
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EIMEI予備校の川越校舎は、川越駅から徒歩5分、本川越駅から徒歩8分。自習室は朝7時から使えます(2026年6月開校)。学校前の30分で評論を1本読み、4行カードを1枚作る使い方に向いた環境です。
無料体験・個別説明会では、志望している大学・学部・方式を書き出したうえで、その分野に必要な概念を5つに絞ってお渡しします。読めなかった1文を持ってきていただければ、語彙・構文・前提知識のどれで詰まっているかを一緒に切り分けます。
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※この記事は、EIMEI予備校が自作した読本『現代文 抽象概念の予備知識』にもとづきます。テーマ選定は9大学・現代文(評論)205題の主題分析によるもので、全国の傾向そのものではありません。また思想の「正しさ」は判定していません。
EIMEI予備校について
EIMEI予備校は川越・ふじみ野・鶴瀬の3校舎で、大学受験の1対1個別指導をしています。中高一貫校の中学生から、高校生・既卒生までが対象です。大学ごとに入試対策読本を自作していて、志望校が決まっている人には、その大学の出題に合わせて何をどの順番で進めるかを一緒に決めていきます。
- 川越校舎(2026年6月開校)川越駅から徒歩5分、本川越駅から徒歩8分。自習室は朝7時から使えます。
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