この記事は、現代文で小説や随筆が出る大学を受けるのに、評論しか練習していない人のために書きました。反対に、志望校に小説が出ないなら小説の練習は要りません。どちらなのかをはっきりさせてから、読み方と解き方の手順に入ります。書いているのは、川越・ふじみ野・鶴瀬でEIMEI予備校の代表をしている二神大輝です。
EIMEI予備校では大学ごとに入試対策読本を自作していて、国語も問題冊子を年度ごとに数えています。この記事に出てくる数字は、そこで実際に確認できたものです。
まず、あなたの受ける大学に小説は出るのか
現代文の対策で最初に決めるのは、読み方ではありません。小説の練習に時間を使う必要があるかどうかです。ここを確認しないまま「現代文の対策」として小説の問題集を進めると、出ないものに何十時間もかけることになります。
小説が「出ていない」大学・学部
- 早稲田大学 法・商・人間科学:2024〜2026年度の国語8冊すべてで、小説は1問も出ていません。現代文はすべて評論でした。
- 学習院大学:国語9冊すべてが評論で、小説は3年間で1冊も出ていません。
- 中央大学:国語24冊すべてが評論と随筆で、小説は3年間で1題も出ていません。
- 明治大学 法・商・政治経済:国語9冊を見て、3学部・3年とも小説の出題はゼロでした。
この範囲だけを受けるなら、小説の読解練習はやらなくて構いません。その時間は、硬い評論を速く読む練習と、古文・漢字に回したほうが確実に点になります。現代文全体の進め方は現代文の勉強法にまとめてあります。
小説が出る/出る可能性がある方式
- 早稲田大学 教育学部C方式(国語国文学科):文・文化構想・教育A方式・教育C方式の国語12冊を見ると、小説が出るのはこのC方式だけです。現代文の素材は小説(小林勝、石坂洋次郎)と随筆(合田佐和子)で、2024年度は『人虎伝』と「山月記」を比較させる出題でした。180〜200字の記述が毎年1問あります。
- 立教大学 全学部日程:11冊のうち小説が出たのは1回だけ(2026年度2月8日、梅崎春生「魚の餌」)。ただしこれは新しい動きで、擬人法・副詞・主語の省略・三人称文体といった表現の特色を問う設問が入りました。1回だから無視、とは言えません。心情説明と表現技法は最低限押さえておく、という判断になります。
小説より、随筆のほうがずっと多い
見落とされがちなのはこちらです。
- 立教大学 全学部日程:大問一の11題の内訳は、評論5・随筆5・小説1。大問一のほぼ半分が随筆です(夏目漱石『硝子戸の中』、奥泉光の作家論、吉田健一の詩論、岡本かの子、山口昌男)。一方で大問二は11題すべてが硬質な評論でした。同じ試験の中で、性格の違う2題が並んでいます。
- 中央大学:24冊すべてが「評論と随筆」。小説はゼロですが、随筆は対策の対象に入ります。
- 明治大学 政治経済学部:4大問のうち1題が「評論または随筆」です。
- 明治大学 国際日本学部:現代文の第二問が随筆・詩・写真といった柔らかい素材と組む形になりやすく、2026年度は詩「傷」との併読でした。情報コミュニケーション学部でも、写真(2025年度)や詩(2024年度)が絡んでいます。
つまり「小説はやらない、でも随筆はやる」という結論になる人が、実際にはかなり多いということです。大学ごとの国語の性格の違いはGMARCHの国語比較でも並べています。
評論と小説では、追いかけるものが違う
評論で追いかけるのは主張と根拠です。筆者は何を言いたいのか、なぜそう言えるのか。対立の構図と言い換えを拾っていけば、線は引けます。抽象語彙の準備が効くのもここです(現代文の抽象概念)。
小説で追いかけるのは人物・場面・心情の変化です。主張はありません。書かれているのは出来事と、それに対する人の反応です。「正しいかどうか」を判定する文章ではなく、「誰がどう変わったか」を追う文章だと考えてください。
この切り替えをしないまま小説を解くと、二つの失敗が起きます。一つは、主張を探しても見つからず、自分が何を読んでいるのか分からなくなること。もう一つは、人物の気持ちを自分の感覚で決めてしまうことです。前者は空回りで、後者は失点に直結します。
小説を読む手順
やることを決めておけば、初見の文章でも同じ動きができます。
- 人物と関係を整理する。名前が出てきた順に、余白へ縦に書き出します。そして関係を一語で添えます。「兄」「元同僚」「下宿の主人」。小説で最初に崩れるのは、誰が誰なのか分からなくなるところです。
- 場面の切れ目を見つける。時間が飛んだところ、場所が変わったところ、回想に入ったところ、回想から戻ったところ。ここに横線を入れて、場面の数を数えます。3場面なのか5場面なのかが分かるだけで、設問の位置が読めるようになります。
- 心情が動いたところに印をつける。同じ人物の反応が前と変わった瞬間です。落ち着いていたのに黙り込む、断っていたのに受け取る。変化の前後が設問になります。
- その原因を本文から探す。印をつけたら、必ず「何があってそうなったか」を直前にさかのぼって特定します。ここを飛ばすと、気持ちの名前だけを覚えて設問に答えられない状態になります。
- 語り手の位置を確認する。「私」が語っているのか、三人称なのか。三人称なら、誰の内面が書かれていて、誰の内面は書かれていないのか。内面が書かれていない人物の気持ちを、答案で断定してはいけません。立教で問われた「三人称文体」「主語の省略」は、まさにこの構造を見ているかどうかの設問です。
心情は「根拠」から取る
小説の設問で問われるのは、あなたがどう感じたかではありません。本文が示している心情です。だから作業は「探す」であって「感じる」ではありません。
本文に書いてある根拠とは
- 行動:立ち上がる、目を伏せる、差し出した手を引っ込める。動作は心情のいちばん強い証拠です。
- 表情・身体の反応:口元がゆるむ、声が低くなる、手が止まる。
- 会話:言った内容だけでなく、言わなかったこと、話題を変えたこと、黙ったこと。
- 回想:なぜここで昔のことを思い出したのか。回想は、今の心情の理由として置かれていることが多いです。
- 情景描写:天候、光、音、部屋の様子。ただしこれは後で書くとおり、読み違えやすい根拠です。
短い例で説明します。「彼は湯呑みを持ち上げ、口をつけずにそのまま置いた」。ここから取れるのは「飲む気になれない状態」までです。「悲しかった」「後悔していた」は、直前に何があったかを本文から押さえない限り書けません。動作は方向を示すだけで、名前まで決めてはくれないということです。
想像で埋めてはいけない理由
理由は単純で、採点が本文を基準にしているからです。自分の経験から補った気持ちは、同じ場面でも人によって別のものになります。そこを答えにすると、当たる年と外す年が出て、点数が安定しません。現代文の点が回ごとに大きく動く人は、ここが原因になっていることがあります(現代文の点数のブレ)。
ついでに言えば、登場人物の行動を性格や心の働きの一般論で説明するのも危険です。入試で問われているのは、この文章のこの人物が、この場面でどう反応したかだけです。
情景描写と心情。読み違えやすいところ
情景描写は、人物の心情を映す鏡として置かれることがあります。ただし機械的に対応させると外します。
- 晴れ=明るい心情、雨=暗い心情、とは限りません。雨が上がったあとに、かえって取り残された感じが書かれることもあります。効果は文脈で決まります。
- 誰の目に映った情景かを確認する。同じ夕暮れでも、見ている人物が違えば意味が変わります。語り手の位置(手順⑤)とつながる話です。
- 対比の片方だけを拾わない。「外は賑やかだった」という一文は、外の賑やかさではなく、室内との差を示すために置かれていることがあります。
- 変化に注目する。情景そのものより、前の場面の情景とどう変わったかのほうが、心情の変化と対応しやすいです。
随筆は、評論と小説の中間にある
随筆は、筆者自身が見聞きしたことを書きながら、そこに評価や感想を重ねていく文章です。出来事が書かれている点は小説に似ていて、筆者の考えが地の文に出てくる点は評論に似ています。両方の読み方を混ぜて使います。
随筆で最も注意してほしいのは、その評価が誰のものかという点です。随筆の中には、筆者の判断、筆者が引用した他人の言葉、世間一般の見方、過去の自分の考えが同じ地の文に並びます。「つまらない習慣だと言われている」と「つまらない習慣だと私は思う」は、設問上まったく別のものです。段落ごとに、その評価の主語が筆者なのか別の誰かなのかを書き込んでおくと、選択肢で迷いません。
もう一つ。随筆はひとつの価値観で最後まで貫かれているとは限りません。前半で否定していたものを後半で見直す、という運びは普通にあります。「随筆だからこう考えるはずだ」と型に当てはめないことです。
設問形式別の対処
- 心情説明(どういう気持ちか):本文から2点を特定します。直前の出来事と、人物の反応です。この2点が言えないうちは選択肢を見ません。
- 理由説明(なぜそうしたのか):行動の理由は、たいてい心情を経由します。「出来事→心情→行動」の三段でつなげられるかを確認してください。出来事から行動へ直接つなぐ答えは、途中が抜けています。
- 表現の特徴:比喩、擬人法、副詞の使い方、主語の省略、文体、時制、会話文の量。ここは知識で決まる部分が大きいので、用語と効果の対応表を1枚作れば短時間で埋まります。答えるときは技法名だけでなく、それによって何が強調されたかまで書きます。
- 語句の意味:辞書の意味をそのまま選ぶと外れる設問があります。傍線の前後で、その語がどう使われているかを見てから選びます。
選択肢の切り方が、評論と違うところ
評論では「本文の論理とずれているか」を見ます。小説では、それに加えて本文に根拠のない情緒が混ざっていないかを見ます。具体的には次の4つです。
- 心情語の強さ:「絶望」「憎悪」「歓喜」のように強い語は、本文がその強さを支えているかを確認します。支えがなければ言い過ぎです。
- 作り込まれた因果:本文にない理由づけが、もっともらしく足されている選択肢があります。原因の部分を本文の行に対応させられるかで判定します。
- 心情を2つ並べた選択肢:前半は合っているのに後半に根拠がない、という形が多いです。2つとも別々に根拠を探してください。
- 内面が書かれていない人物の気持ち:手順⑤の話です。書かれていない人の心情を断定する選択肢は切れます。
切り方そのものの手順は現代文の選択肢の切り方で詳しく書いています。
記述で心情を書くときの型
心情の記述は、感想文になると点が出ません。要素を決めて組みます。
- 30〜40字:原因+心情。「〜されたことで、〜と感じている」の形です。
- 50〜60字:原因+心情+変化の向き。「それまで〜と思っていたが、〜によって〜と感じ始めている」。
- 100字以上:さらに場面の状況と、心情が行動として表れた部分を足します。早稲田の教育学部C方式のように180〜200字を書かせる方式では、ここまで組む必要があります。
どの長さでも共通しているのは、心情語を1つに絞り、その手前に本文の事実を置くことです。字数の作り方は現代文の記述の書き方と合わせて読んでください。
練習の回し方
小説が出る方式を受ける人向けの、現実的な量です。
- 小説は週2本。1本は志望する方式の過去問、もう1本は共通テストや他大学の小説問題です。週2本を6週続ければ12本になり、型は身につきます。
- 随筆は週1本。立教や中央のように随筆が出る大学を受けるなら、こちらのほうが優先です。
- 時間配分は、解く25分・直し35分。直しを長く取ります。小説は解いた回数ではなく、直した回数で伸びます。
- 直しの手順:①自分が選んだ根拠を本文の行で書き出す ②正解の根拠と並べる ③ずれの種類を記録する。種類は「根拠なし」「言い過ぎ」「視点の混同」「場面の取り違え」の4つで足ります。
- 4週ぶん記録すると、自分のずれが2〜3種類に収束します。そこだけを見て解けば、初見でも安定します。
残り3か月の優先順位
- 志望校・志望方式に小説が出るかを確定させる。過去問の目次を見れば10分で済みます。ここが決まらないと、以下の順番が決められません。
- 出ないなら、小説はやらない。硬い評論を速く読む練習、抽象語彙、古文、漢字に全部回します。ここまで書いた読み方を知識として知っておくだけで十分です。
- 出るなら、週2本+記述の型を先に固めます。読み方の手順5つは、1週間で身体に入ります。
- 随筆が出る大学は、随筆を優先。評論寄りの読み方に「評価の主語」のチェックを足すだけなので、投資対効果が高いです。
- 表現の特徴は最後に1時間。用語と効果の対応表を作って覚えれば、1〜2問は取れます。直前期でも間に合う分野です。
迷ったら、まず1番だけやってください。「自分の受ける試験に小説は出るのか」を調べるだけで、この3か月の使い方が変わります。
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