慶應義塾大学を受けるつもりで、英語をどこまで仕上げればいいのか決めきれていない高校3年生・既卒生と、その保護者に向けた記事です。EIMEI予備校(川越・ふじみ野・鶴瀬)代表・英語科の二神大輝が、自作の慶應義塾大学 入試対策読本のデータをもとに書きます。
先に結論を置きます。「慶應の英語」という一つの試験は存在しません。同じ科目名の下に、辞書を2冊持ち込んで120分かける試験と、80分で約50問を塗りつぶす試験が並んでいます。以下の数字は、2024〜2026年度の問題冊子を通読して数えた実測値(英語29冊)と、大学公表の要項・得点データだけです。時間・配点は2026年度の要項、語数と設問数は冊子の実測です。
学部ごとの英語を、実測値で並べる
- 文学部 120分・150点/辞書2冊まで持込可/全記述/実質1題(長文7問+英作文1問)/約2,100語1本(2026年度は実測2,136語)
- 法学部 80分・200点/辞書不可/全問マーク/5題・設問48〜53問/計約2,500語
- 経済学部(A・B共通) 100分・200点/5題/前半マーク(解答番号1〜33)+後半記述/約2,500語+日本語の投書約900字
- 商学部(A・B共通) 90分・200点/8題/マーク46問+記述11問=57問が3年間同一/設問込みで約5,200語
- 総合政策・環境情報(SFC) 120分・200点/3題60問すべてマーク、記述ゼロ/3,680〜4,280語
- 医学部(第1次) 90分・150点/全問記述/設問24〜32問
- 理工学部 90分・150点/3年間同じ5大問/マーク54〜60問+記述1題
- 看護医療学部(第1次) 90分・300点/全問選択/7大問・設問71問が3年とも完全一致
- 薬学部 80分・100点/設問文も選択肢もすべて英語/設問28〜31問
満点が違うので重さは比率で見ます。最も高いのは看護医療学部の300点/500点=60%、次が商学部とSFCの50%、経済学部が約48%、法学部が約44%、文学部が約43%。医学部・理工学部は30%、薬学部は約29%です(学部別の記事)。
辞書が使える学部、記述が出る学部、超長文の学部
文学部 ― 辞書2冊で1本の評論と格闘する
慶應で辞書が使えるのは文学部だけです。冊子の表紙には3年とも同じ文言がありました。「英語辞書を2冊まで使用することができます。但し、試験開始まで、辞書を引かないでください」。記述は下線部和訳2問(毎年固定)、日本語による内容説明2問(100〜120字+50〜75字)、英作文1本。英作文は語数指定なしで、枠から逆算すると80〜120語程度です。
そして2026年度の英語は受験者平均が150点満点の67.13点=44.8%。同学部の日本史51.3%・世界史56.0%・小論文55.0%より低く、辞書を持ち込んで120分かけても半分に届きません。文学部だけは英語の外部試験利用(英検CSE総合スコア2500以上)も選べますが、換算方法は非公表です。
法学部 ― 全問マーク、語彙が4割
記述は一切なし。大問I〜Vは3年とも同じで、綴り・複合語5問、句動詞など5問、物語文中の下線語10語を英英定義に対応づける10問、会話文10問、実在人物インタビュー8〜9問、900〜1,100語の長文10〜14問。語彙問題が20問で約40%、会話文とインタビューで20問前後・約40%です。並ぶ語は aquiline、fetid、transmogrify の水準で、単語帳の日本語訳では届きません。
経済学部 ― 冊子の中に足切りの線が引かれている
I〜IIIが賛成論(700〜1,000語)・反対論・関連論点でマーク、IVが日本語の投書+英語の設問で記述、Vが自由英作文。17ページ目に「ここからは解答用紙Bを使用しなさい」という枠が入り、マークと記述が物理的に分断されています。英作文は3年とも必出で語数指定なし。求められるのは(1)異なる見解に言及して反論、(2)問題文I〜IVの見解を最低一つ自分の言葉で言い換える(直接引用は引用符)、(3)著者名と出版年を記す。大学のレポートの作法そのものです。
商学部 ― 密度が慶應最高
長文3本(各700〜870語)+文法語法7問+語彙中心の空所補充6問+短文4問+記述11問。配分は読解47%/語彙30%/文法12%/短文7%で、純粋な文法は7問だけ、語彙系が17問。記述は語群の動詞を語形変化させる6問と名詞派生形に変える5問。同じ動詞を2回以上選ぶと得点になりません。
SFC ― 「超長文」の実体は英語IIIの一本
英語I(660〜820語・15問)、英語II(570〜890語・15問)、英語III(1,230〜1,550語・30問)。設問は3択の空所補充40問と4択の読解20問だけで、語彙選択が全設問の67%。文法単独・会話文・整序・自由英作文・発音は3年6冊すべてゼロ。総量には余裕がありますが、英語IIIだけで全設問の半分=約100点相当で、落とすと挽回できません。
理系4学部 ― 共通対策は成立しない
医学部は全問記述で、和訳3〜4問・和文英訳2〜3問・字数指定の日本語説明・英語による説明(20〜40語)・自由英作文(80〜100語)が同居します。題材は医学系ではなく一般向けの新聞・雑誌記事。医学単語より抽象的な評論の訳出と要約が問われます。理工学部は長文2本+会話文+理系短文5問+記述1題が3年固定で、同義語選択11〜13問が毎年出ます。看護医療学部は300点なのに記述ゼロで71問の処理速度が勝負。薬学部はWritingの形式が毎年変わります。
1分あたりの語数を出して、時間配分に落とす
語数を試験時間で割ると、密度の差が出ます。
- 商学部 約5,200語÷90分=約58語/分。慶應で最も高密度
- SFC 3,680〜4,280語÷120分=31〜36語/分
- 法学部 約2,500語÷80分=約31語/分。ただし設問約50問で1問約96秒
- 経済学部 約2,500語÷100分=約25語/分。これに投書と英作文1本
- 文学部 約2,100語÷120分=約18語/分。速さより書く時間の確保が勝負
- 看護医療学部 71問÷90分=1問約75秒。設問数で設計する
商学部は「IV〜VIIIを先に25分、長文3本に60分」のように配分を紙に書いて固定する。記述を最後に残すとスペルを考える時間が消えます。SFCは英語IIIだけを50〜55分で解き切る単独演習。法学部は語彙20問を1問10秒台で抜けます(1分あたりの語数の記事)。
長文のテーマ傾向 ― 何を読み慣れておくか
3年分の素材を並べると、人文・社会科学の硬い評論と思想史的な抽象論が中心で、理系学部でも同じでした。英語長文 抽象概念の予備知識(約190大学・共通テストの英語長文1,005パッセージから抽象度の高い24概念を抽出)と突き合わせると、2026年度の英文は次の概念に当たっていました。
- 言語相対論 サピア=ウォーフ仮説の再検討と、言語が思考や知覚に与える影響(文学部2026年度の素材そのもの)
- 疎外・怠惰・遊び 規範の外に身を置く「怠惰」の哲学的考察/子どもの自由な遊びとスマホ時代の遊びの減少
- 人間中心主義と動物の地位 テクノロジーと自然・生態系の関係を捉え直す論考
- 偶然性と運 起業家の成功は人生設計より行動力と楽観主義と運によると論じる文章
つまりその概念が何を主張して何を批判されているかを先に知っているかで読みが変わる英文です(英語長文の抽象概念の記事)。語彙も同じで、テーマ別頻出英単語帳(約190大学・415題・約86万語のコーパス集計)ではパッセージ数最多が歴史・文化・人類学系の125題、次が心理・脳科学104題、物語・エッセイ101題。慶應の素材(経営史、人類学、思想史、感情の歴史、芸術哲学、系譜学、医学史)とほぼ重なります。文・法・経済は言語と社会・格差と歴史・文化、商は経済・仕事・消費、総合政策は社会科学、環境情報は環境・気候変動とAI、医と薬は心理・脳科学と医療・健康を束で入れてください。設問文が英語の薬学部とSFCは、設問語の取り違えも潰します。
採点の仕組みから、英語で何点取るかを決める
慶應には条件を満たさないと答案が読まれない学部があります。目標点はここから逆算します。
- 経済A方式 英語の一部+数学の一部が一定点に届かないと、英語の後半・数学の後半・小論文が採点されません。冊子の表紙にも「問題IからIIIが最初に採点されます」と印刷されています
- 経済B方式 英語の一部だけで判定されます。地歴の冊子にも「解答用紙A(マークシート)の得点は解答用紙Bが採点されるかどうかには影響しません」と明記。英語の前半の重みは配点表以上です
- 法学部 小論文は「外国語+地理歴史の合計点」と「地理歴史単独の得点」の両方が一定以上でないと採点されません。英語で稼いで地歴を捨てる戦略は通じません
- 看護医療学部 第1次の合否は外国語300点+選択科目200点=500点だけで決まり、小論文は第2次で使います
2026年度の合格最低点を得点率に直すと、商B75.0%、法70.4%、商A69.8%、経済B65.7%、SFCの外国語選択が総合政策64.8%・環境情報63.5%、文学部60.0%、医59.0%、経済A57.4%、理工56.0%、看護医療51.8%、薬学科51.1%(医・看護は第1次)。英語の受験者平均が出ているのは文学部44.8%、法律73.6%、政治74.2%、商58.5%だけです。
法学部は英語の平均が7割超で差がつきにくく、落とすと致命的。文学部は平均44.8%なので60%取れば約23点のリード。商学部は英語が満点の50%なので、平均58.5%を大きく上回らないと総合点が届きません。ただし合格最低点は年度で動きます。法学部は2025年度の253点・251点から2026年度の317点へ64〜66点上がり、同じ年に英語の受験者平均も105.34点から147.28点へ約42点上がりました(満点は両年とも450点)。前年の合格最低点を目標にすると届きません。直近2年の得点率の高いほうに5ポイント足すのが安全です。
併願するとき、英語の準備は重なるのか
10学部は2月9日から18日に1日ずつで重なりませんが、同一学部内の併願はすべて不可です(経済A/B、商A/B、法律/政治、理工の学門など)。
重なるもの。硬い評論を読む地の力とテーマの予備知識は全学部で効きます。総合政策と環境情報は形式が同じで問題が別なので、互いにそのまま演習素材になります。派生語と語形変化も、商学部の記述11問・看護医療のスペリング20問・法学部I[A]と形を変えて並びます。
重ならないもの。アウトプットの型が互換しません。文学部は和訳と100字前後の日本語説明、経済学部は引用つきの意見英作文、医学部は和訳と和文英訳と英語での説明。語彙も、法学部は英英定義で答える20問、SFCは意味の近い3語の使い分け。処理速度も商学部の58語/分と文学部の18語/分は別です。文系で最も回しやすいのは「英語+地歴+小論文」で文・法・経済Bですが、3学部に出願できることと3学部分の対策ができることは別です(小論文側の重なりはこちら)。
慶應を受けるなら、最低限やっておく3つ
- 自分の学部に足切りがあるかを確認し、どの大問が「最初に採点される」のかを覚える。経済学部なら17ページ目に線があり、解答番号1〜33までが対象だと知って会場に入るかどうかで最初の1分が変わります
- 語数を試験時間で割り、時間配分を紙に書いて固定する。商学部なら58語/分、SFCなら英語IIIに50〜55分。問題冊子に試験時間は印字されていないので、要項の時間で自分で計ってください
- 頻出テーマの概念を、日本語で説明できる状態にしておく。「この概念は本来どういう主張で、何を批判されているのか」を1分話せるかが、読解の速度と精度になります
残り数か月の優先順位
- 10月前半 受ける学部を絞り、大問構成・設問数・語数・解答用紙の形式・足切りの有無を紙1枚にまとめる
- 10月後半〜11月 配点の重いところに集中する。商学部なら記述11問、SFCなら英語III、経済学部ならI〜IIIの33問、看護医療なら文法とスペリング各20問。「苦手だから後回し」が最も効かない時期です
- 11月〜12月 アウトプットの型を固める。経済学部なら「反論への言及→自説→本文の言い換え引用(著者名・出版年つき)」を固定フォーマットに。文学部なら和訳と100〜120字の説明を毎日
- 12月〜1月 時間を計った通し演習。解答用紙が2枚ある経済・商・法は、マークと記述を分けて解く感覚を作っておく
- 1月〜2月 頻出テーマを2〜3系統に絞って回す。慶應は2026年度から全学部・全科目で出題意図と解答例を公表していますが、掲載は期間限定です
ここまでの形式・配点・試験時間はすべて2026年度基準です。経済学部は2027年度から小論文が休止されて2科目になり、SFCは外国語が英語のみになります。自分が受ける年度の要項で必ず確認してください。受ける学部を絞り、その英語だけを深く掘るのが正解です。EIMEI予備校の川越校舎では大問構成から逆算して進め方を決めます。自習室は朝7時から使えます。つらさが続くときは学校の先生や保護者にも相談してください。
あわせて読みたい
EIMEI予備校について
EIMEI予備校は川越・ふじみ野・鶴瀬の3校舎で、大学受験の1対1個別指導をしています。中高一貫校の中学生から、高校生・既卒生までが対象です。大学ごとに入試対策読本を自作していて、志望校が決まっている人には、その大学の出題に合わせて何をどの順番で進めるかを一緒に決めていきます。
- 川越校舎(2026年6月開校)川越駅から徒歩5分、本川越駅から徒歩8分。自習室は朝7時から使えます。
- ふじみ野校舎 ふじみ野駅東口から徒歩1分。
- 鶴瀬校舎 鶴瀬駅西口から徒歩3分。
川越校舎の詳細・無料体験のお申し込みはこちら/ふじみ野・鶴瀬校舎のことは公式LINEからお問い合わせください。
