この記事は、理系の学部を志望していて、物理をどの単元から始めるべきか決めかねている高校生と保護者の方に向けて書いています。自作読本『物理 頻出単元と大学別対策』の集計をもとに、力学・電磁気・波動・熱力学・原子が、どの大学でどれくらい出ているのかを整理しました。川越校舎で理系の生徒と面談するとき、実際に見せている数字です。
物理は、数学以上に「出る単元」が大学で分かれます
読本のもとは、早稲田・明治・青山学院・立教・中央・法政・慶應義塾・学習院・東洋・東京電機の10大学の物理の入試問題です。大学別の対策読本をつくる過程で、過去問の冊子そのものを年度別・大問別に読み込んで集計したデータを、単元ごとに並べ替えたものが土台になっています。
結論ははっきりしています。力学と電磁気は10大学のどこでも出ますが、波動・熱力学・原子は「毎年必ず出る大学」と「数年間まったく出ない大学」に真っ二つに分かれます。ある大学では毎年大問1題が割り当てられ、別の大学では分析した冊子すべてで出題ゼロ、ということが起きています。
一つお断りします。読本の数字は大学ごとに分析した冊数も大問の数え方も違うため、大学をまたいだ数値の比較はできません。同じ大学の中で単元同士を比べる、あるいは同じ単元で大学ごとの「出る・出ない」を個別に確認する。この二つの読み方をしてください。
なお、慶應義塾・青山学院・法政・立教・中央の5大学は年度別・大問別の頻度表と分母がそろった信頼度の高いデータです。東京電機・東洋・明治・早稲田の4大学は原資料が箇条書きの要約にとどまり、学習院は分析対象が4冊(2024・2025年度のみ)と最も少なく、原資料自身が「n=4では判定不能」と注記しています。以下、そのつもりでお読みください。
力学と電磁気:志望校が決まる前から始めてよい二本柱
力学は、分母が明記されているすべての大学で出題が確認され、「出ない」年度・冊子は見当たりません。しかも多くの大学で、大問の並び順そのものが固定されています。
- 中央大学:4冊中4冊とも大問Ⅰが力学
- 法政大学:6冊中6冊とも大問Ⅰ・小問9問が力学
- 東洋大学:8本中8本とも大問Ⅱが力学
- 青山学院大学:7/7(全学部日程・理工A方式・理工B方式のすべて)
- 慶應義塾大学理工学部:3/3、大問1に固定配置
- 明治大学理工学部:3/3、A枠に固定
- 東京電機大学:15本中13本、完全記述式の問3に配置
電磁気も同じく、分母が明記されているすべての大学で出題が確認されています。法政大学は6冊中6冊で大問Ⅱ・小問7問、中央大学は4冊中4冊で大問Ⅱ、東洋大学は8本中8本で大問Ⅲ、慶應義塾大学理工学部は大問2に固定です。立教大学では、6日程36題のうち電磁気が10題を占め、力学の8題を上回ります。6日程のうち4日程で電磁気の大問が2題に増えるためです。
テーマにも重なりがあります。東洋大学は放物運動・衝突・単振動・円運動・振り子を組み合わせた誘導問題を毎回出し、法政大学の大問Ⅰは衝突・反発係数が4冊、摩擦が3冊、円運動・単振動が3冊、中央大学も衝突・円運動・単振動が中心テーマです。衝突・円運動・単振動という組み合わせは、複数の大学で共通の主役になっています。
電磁気では、東洋大学の大問Ⅲでコンデンサー(直並列・誘電体挿入・力の導出)が8本中5回で最多、電磁誘導・電流が作る磁界が3回。中央大学は4冊のうち電磁誘導が3冊、法政大学はコンデンサーが3冊・電磁誘導が2冊です。コンデンサーと電磁誘導が軸になります。
波動:大問構成に組み込まれているかどうかが、すべてです
波動の頻度を左右しているのは、単元の難易度ではなく大問構成のパターンです。
毎回大問が用意される大学があります。青山学院大学は全学部日程・理工A方式・理工B方式のいずれも大問3が波動で7冊すべてで出題(7/7)。法政大学もA方式6冊すべてで大問Ⅳが波動・小問7問(光が4冊、音が2冊)。立教大学は6日程すべてで毎回1題出題され、ドップラー効果が6回中4回を占めます。この3大学では出る年と出ない年の揺れがほとんど生じません。
逆に、大問まるごとの波動が稀な大学もあります。慶應義塾大学医学部は3年中2年で波動が出ていますが、これは小問集合の中の設問で、大問まるごとの波動は3年とも確認されていません。理工学部は大問3が熱力学・波動・原子のローテーションで、波動が回るのは3年に1回。早稲田大学理工3学部共通も波動が独立して出たのは2024年度の1回のみ、明治大学理工学部もC枠に波動が回ったのは2024年度だけです。
これらの大学では、波動は「出れば必ず出る」単元ではなく「順番が回ってくれば出る」単元という性格になります。ただし、だから範囲から外してよい、ということではありません。
熱力学:法政・立教は6/6、青山学院は1/7
熱力学は、大学差が数字としていちばん分かりやすく出る単元です。
- 法政大学:6冊中6冊。必ず大問Ⅲ・小問7問(ピストン/シリンダー4冊・断熱変化3冊)
- 立教大学:36題中6題。6日程すべてで毎回1題
- 東洋大学:8本中7本。大問Ⅰの小問集合に組み込み(気体のサイクル・比熱・断熱変化)
- 青山学院大学:7冊中1冊(2023年度の理工A方式のみ)
- 慶應義塾大学理工学部:3年中1年(2025年度に大問3のローテーションで巡ってきた)
- 明治大学理工学部:3年中1年(C枠、2025年度)
- 中央大学:4冊中2冊
- 早稲田大学理工3学部共通:3年中2年(2025・2026年度)
法政・立教・東洋を受けるなら、熱力学は力学・電磁気と同じ水準で仕上げる必要があります。一方、青山学院・慶應理工・明治理工のようにローテーションで出番が限られる大学を受けるなら、熱力学より先に仕上げるべき単元が他にある可能性があります。
中央大学の4冊中2冊は読み方に注意が要ります。力学・電磁気が4冊すべてでⅠ・Ⅱに固定される一方、Ⅲに熱力学と波動のどちらが入るかは年度で変わり、波動も同じく4冊中2冊で対になっています。ただし分母が小さいため、「交互に出る」と断定するところまでは原資料からは読み取れません。
原子:大学名ではなく、学部・方式まで決めてから判断する
10大学の単元別データの中で、もっとも差が大きいのが原子物理です。必出に近い大学から見ていきます。
立教大学は6日程36大問のうち原子が6大問、6日程すべてに必ず1題含まれます。題材は水素原子模型・核融合・光電効果・結合エネルギー・半減期・コンプトン散乱と多様で、原資料は「光量子・ド・ブロイ波・原子模型・質量欠損・放射性崩壊を一通り仕上げることが、立教物理では最もコストパフォーマンスが高い」と評価しています。慶應義塾大学医学部も3年間とも出題(3/3)。ただし大問まるごとではなく小問集合の中の1〜2問で、計算量は軽いとされています。学習院大学も全10大問中2大問で2年連続の出題があり、原資料は「捨ててはいけない」と判定しています。
逆に、数年間ゼロの大学も並びます。東洋大学は8本中0回、中央大学は4冊中0冊、法政大学はA方式6冊すべてで0冊、青山学院大学は確認できた7冊中0冊、早稲田大学理工3学部共通も3年間で0回です。ただし中央大学の原資料は、この0/4について「範囲外である保証はない」と明記しています。「出ない」と断定するのではなく「今のところ確認できていない」と読むのが適切です。
そして、原子でいちばん注意すべきなのが、同じ大学の中で出方が正反対になる例です。
慶應義塾大学は、医学部が3/3で必出だが小問レベルで計算が軽いのに対し、理工学部は3年に1回と低頻度である一方、出題された年は大問1題まるごとが原子で、配点の約3分の1を占めます(2024年度は光電効果とコンプトン効果)。「毎年軽く出る」学部と「稀に重く出る」学部が同居しています。
早稲田大学も同じ構造です。理工3学部共通(基幹理工・創造理工・先進理工)は原子の出題が3年間で0回なのに対し、教育学部理学科B方式は3年中2回(2024・2026年度)。原資料は「理工志望なら原子は後回し可、教育学部志望は原子が必須」と明確に書き分けています。大学名だけで原子の要否を決めると、判断を誤ります。志望校をどう比べるかという話は、理系志望が主要大学を比べるときの見方でも扱っています。
大問構成と答案形式:同じ単元でも、求められる中身が違います
同じ力学が出ても、マーク式で選ぶだけなのか、導出過程や論述、描図まで書かせるのかで対策の中身はまったく変わります。
論述・描図が一貫して求められるのは、慶應義塾大学医学部(全問記述、論述は毎年3〜5問、描図は3年中2年)、中央大学共通テスト併用方式(全問記述、2025年は「導出の過程も含めた答えを書きなさい」と明示)、学習院大学(全問記述式、全大問の冒頭に「結果だけでなく考えの筋道も書きなさい」が付く)、青山学院大学理工A方式(作図が2年連続)、立教大学(作図は6日程中3日程、うち1日程はx-tグラフの描図を要求)です。
逆に論述・描図が一貫してゼロと明記されているのが、東洋大学(全8本100%マークシート、記述式設問も計算過程の記入欄もなし)、法政大学、明治大学理工学部(全問マーク+記述欄1個)、早稲田大学理工3学部共通、慶應義塾大学理工学部(3大問すべて空欄補充)です。
ここで見落としやすいのが、「記述式だから途中点がある」とは限らないという点です。法政大学は全問記述式(マークなし)ですが、6冊すべてで「余白は計算に使ってよいが採点の対象とはしない」と明記され、論述も6冊中0冊。答えのみで完結します。一方で東京電機大学は、大問3題のうち問3を「導き方も付して解答する完全記述式」と定め、その問3に力学が15本中13本配置されています。東京電機を受けるなら、力学を記述式で解けるように仕上げる必要があるということです。詳しくは東京電機大学 傾向と対策もご覧ください。
計算量の目安も押さえます。慶應義塾大学医学部は理科200点120分のうち物理が実質60分、小問数は大問あたり6〜14問で年間29〜35問。理工学部も物理100点・実質60分です。法政大学A方式は計30問(Ⅰ力学9問・Ⅱ電磁気7問・Ⅲ熱力学7問・Ⅳ波動7問)です。60分で30問前後という密度は、解法を思い出す時間がほとんどないという意味です。
なお、早稲田大学教育学部B方式は全問記述で答えが文字式、近似式・積分・数列の和など数学的処理を明示的に要求する出題が特徴です。物理が数学の運用力に直結する典型なので、数学の勉強法も並行してご確認ください。
単元の前に、そもそも何を選べるのかを確認する
物理の単元対策を始める前に、理科の選び方を募集要項で確認してください。仕組みが大学ごとにかなり違います。
明治大学理工学部は、物理3題(A・B・C)と化学3題(D・E・F)の計6題から3題を選ぶ方式です。物理3題でも、物理2題+化学1題でも構いません。ただし4題以上解答すると、すべての解答が無効になります。A枠は力学(3/3)、B枠は電磁気(3/3)で固定、C枠だけが2024年度は波動、2025年度は熱力学、2026年度は原子と入れ替わっており、原資料は「C狙いは分野運に左右される」と評しています。
中央大学は方式によって選び方そのものが違います。学部別選抜は出願時に科目を登録、共通テスト併用方式は当日に理科9題(物理Ⅰ〜Ⅲ・化学Ⅳ〜Ⅵ・生物Ⅶ〜Ⅸ)から3題を選択し、こちらも4題以上選ぶと理科全体が無効です。冊子・試験時間・配点・解答方式のすべてが異なる別の試験だと原資料は明記しています。
慶應義塾大学も対照的で、医学部は理科3科目から2科目選択、理工学部は物理と化学が両方必須で選択の余地がありません。法政大学は学部で異なり、情報科学部は物理のみ、デザイン工学部・理工学部は物理または化学、生命科学部は3科目から選択です。東洋大学・東京電機大学は理科1科目選択で、単元選択制はありません。
着手の優先順位:この順番で組み立ててください
ここまでの数字を、実際の手順に落とします。
- 志望校が固まっていない段階では、力学と電磁気だけに集中します。10大学すべてで確認できる単元なので、どこを受けることになっても無駄になりません。力学は衝突・円運動・単振動、電磁気はコンデンサー・電磁誘導から手をつけます。
- 志望校と学部・方式が決まったら、大問構成を紙に書き出します。大問が何題で、どの番号に何の単元が置かれ、解答形式がマークか記述か、論述・描図があるかを一覧にします。法政・中央・青山学院・立教のように大問番号が固定されている大学なら、すぐに終わります。
- 波動・熱力学・原子の優先順位を、その表に合わせて決めます。法政・立教なら熱力学と波動は力学・電磁気と同じ水準まで。立教・慶應医学部なら原子も同じ優先度です。逆に慶應理工・明治理工のようにローテーション方式なら、ローテーションに含まれる3分野を「軽く一周」させておく形になります。
- 答案の形式に合わせて、演習のやり方を変えます。論述・描図が出る大学(慶應医学部、中央の共通テスト併用方式、学習院、立教、青山学院理工A方式)を受けるなら、答えを出して終わりにせず、理由と過程を言葉と図で書く練習を早めに始めてください。逆に法政のように答えのみ採点の大学なら、途中点に頼らない計算の正確さを優先します。
- 最後に、志望校の直近数年分を自分の手で解いて確認します。この記事の数字は出発点であり、自分が受ける年度・方式にも当てはまるかは過去問で確かめてください。
大学ごとの制度・配点・出願方式まで含めた話は、大学別 傾向と対策まとめにまとめています。
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