「数学の答案の書き方が分からない」「最後まで解ききれないと0点になってしまう」。高3生・既卒生から、秋になると必ず出てくる相談です。この記事は答案の書き方そのものに絞ります。単元の優先順位や国公立二次全体の組み方は別の記事で扱うので、ここでは「1問の答案をどう書くか」だけを扱います。
最初にお伝えしたいのは、答案の書き方の練習が必要かどうかは、志望校と方式で決まるということです。全問マークシートの大学では、書き方で差がつきません。逆に全問記述の大学では、計算力が同じでも書き方で点が変わります。
まず「志望校はマーク式か記述式か」を確認する
EIMEI予備校では大学ごとに入試対策読本を自作していて、そのために集めた過去問の分析データを、単元と形式で横断して整理しています。そこに記録されている解答形式を並べてみます。
全問マークシート方式と記録されている大学・方式
- 法政大学の理系は9冊すべてが全問マークで、証明問題は63大問中0です。
- 法政大学の文系はT日程が6大問すべてマーク(空所補充)、A方式は3大問が記述という二重構造で、3年間変わっていません。
- 青山学院大学の文系(全学部日程)は全問マーク、慶應義塾大学の総合政策学部・環境情報学部はそれぞれ5大問すべてマーク、早稲田大学の人間科学部文系方式は大問5題すべてマークです。
- 東洋大学は全問マークシート方式(空所補充)で、記述式の設問はゼロと記録されています(東洋大学のデータは原資料が簡潔なため参考情報として扱われています)。
全問記述と記録されている大学・方式
- 早稲田大学の商学部・社会科学部は全記述です。とくに社会科学部は、「途中経過を記述すること」が問題に明記されていると記録されています。
- 早稲田大学の理系(基幹理工・教育学部理学科B方式)は6冊すべて全問記述で、マークは一切ありません。学習院大学も12冊すべてマークシートなしの全問記述式、東京電機大学も分析対象の16本すべてが記述式です(東京電機大学のデータは参考情報です)。
- 慶應義塾大学の理系4学部(医・理工・看護医療・薬)は12冊すべてマークシート不使用で、記述と証明の併用です。理工学部は証明記述が毎年2〜4問出題されています。
- 中央大学の共通テスト併用方式(理系)は全記述で、「ほぼ全題に複数の示せ・証明せよ」がある重い形式と記録されています。
- 立教大学は文系・理系とも記述中心で、理学部数学科向けに上乗せされる第Ⅳ問は、6回のうち4回が証明問題です。
同じ大学でも方式で混ざるケース
- 中央大学の理工学部学部別選抜は、大問Ⅰ・Ⅱがマーク、大問Ⅲ・Ⅳが記述という構成が3年間変わっていません。
- 慶應義塾大学の経済学部A方式は、[1]〜[3]がマーク、[4]〜[6]が記述で、マーク部分が足切りの対象と記録されています。
- 青山学院大学の理工学部はマーク(問題1・2)と記述の併用で、マーク側にも数Ⅲの内容が混入する年があります。社会情報学部はB方式・C方式とも記述です。
- 明治大学の文系4学部はマークと記述の併用(60分・100点)で、政治経済学部は大問Ⅰがマークの小問集合、大問Ⅱが微積分の記述という2大問構成で3年固定と記録されています(明治大学文系のデータは参考情報です)。総合数理学部は120分・200点で、4〜5大問のうち2題が完全記述です。
国公立を受ける人は、この上に共通テストが乗ります。国公立の入試英語を分析した別冊では、二次試験が「共通テストで測れない部分、つまり和訳・説明記述・自由英作文に特化する方向が鮮明」と整理されています。これは英語の分析ですが、共通テストはマークで処理し、二次は書いて説明させるという分業の構造そのものは、数学の対策でも同じように意識しておいてよい点です。二次の記述全体の組み方は国公立二次の記述対策の記事にまとめています。
読本の記載から言えること、言えないこと
ここで、はっきりさせておきたいことがあります。各大学の採点基準そのものは公表されていません。分析データに記録されているのは出題形式と設問の指定です。「この書き方なら何点」という話はできません。できるのは、記録されている指定を守り、読む人に確実に伝わる形で書くことです。そのうえで、データに残っている指定は対策に直結します。
- 早稲田大学社会科学部のように、「途中経過を記述すること」と問題側から指定されている方式があります。この場合、答えだけを書く答案は指定に反します。
- 慶應義塾大学経済学部A方式のように、マーク部分が足切りの対象と記録されている方式があります。記述の出来を問う前に、前半のマークで基準に届く必要があるという構造です。
- 東京電機大学の理工学部は数学Ⅲと数学Ⅱ・Bの選択制で、選ばなかった方の解答用紙を試験開始50分後に回収するという独自の仕組みが確認されています。どちらで解くかを開始時点で決めておく必要があります。
逆に、全問マークの大学・方式では、証明・論証を要する設問は構造的に出題されません。法政大学理系の63大問中0という数字が、それをそのまま示しています。
部分点が入る答案の4つの条件
途中経過を書かせる方式では、答えに至らなくても、示せたところまでが読み取れる答案には点が入る余地があります。逆に言えば、読み取れない形で止まっている答案には入りません。条件は4つです。
- 何を求めるのかを最初に書く。「求める確率をpとおく」「求める面積をSとする」の一行です。これがないと、途中の計算が何のための計算なのか判断できません。
- 使う定理・条件を名前で書く。「余弦定理より」「相加平均と相乗平均の関係より」「平均値の定理を用いると」。式だけが並んでいる答案と、根拠が書かれている答案では、読み取れる情報量が違います。
- 場合分けの根拠を書く。いくつに分けるかではなく、なぜそこで分かれるのかを一行添えます。「aと1の大小で最大値をとる位置が変わるので」。
- 途中で止まっても「ここまでは示せた」が読み取れる形にする。詰まったら、そこまでの結論を一文で確定させます。「以上より、f(x)はx=1で極小値をとることが分かった。ここから最小値を求める」。
この4つは答案の入口と出口に集中しています。真ん中の計算より、そこを整えるほうが先です。
単元別・最初の1行の型
「何から書けばいいか分からない」という人は、単元ごとに書き出しを固定してしまうのが速いです。読本の分析で頻度が高い単元から3つ挙げます。単元ごとの頻度は数学の頻出単元の記事で扱っています。
場合の数・確率
読本が横断した大学のどのデータでも頻度が高く、出題ゼロの例が見当たらない単元です。マーク式でも記述式でも出ます。最初の1行はこれです。
「サイコロをn回投げるとき、起こりうる全事象は6のn乗通りで、これらは同様に確からしい。求める確率をp(n)とおく。」
書くべき要素は3つ、全事象の個数・同様に確からしいこと・求めるものの記号です。数え上げの過程を記述させる設問では、「何を1つとして数えているか」が伝わるかどうかが分かれ目になります。確率漸化式の形で出る大学なら、「n回目にAである確率をp(n)とおく」と状態の定義から書きます。
微分積分
文系型では微分積分(Ⅱ)が定位置になっている大学が多く、理系型では極限・微分積分(Ⅲ)が最終大問に置かれる大学があります。記述の型は共通です。
「x>0の範囲で考える。f(x)=(式)とおき、f'(x)を求めて増減を調べる。」
ここで落としやすいのが定義域です。問題文にある範囲、対数の真数条件、分母がゼロにならない条件を、増減表を書く前に一行で宣言します。増減表も答案の一部なので、xの欄・f'(x)の符号・f(x)の値を省略せずに書きます。
図形と計量・ベクトル
図形と計量は、大問Ⅰが3年連続この分野で固定されている大学もある単元です。ベクトルは記述式で問う大学が複数あります。書き出しはこうです。
「三角形ABCにおいて、BC=a、CA=b、AB=c、角A=θとおく。」
ベクトルなら「始点をAにとり、AB=(ベクトルb)、AC=(ベクトルc)とおく」です。文字と始点を自分で定義してから使うのが原則で、これを書かずに途中でaやbが出てくる答案が一番多い形です。図は補助で、根拠は式と言葉で書きます。
減点されやすい書き方5つ
- 範囲の書き忘れ。定義域、nが自然数であること、0以上2π未満であること。範囲を書かずに答えを出すと、その答えが範囲内かどうかを確認していない答案になります。求めた解が範囲外なら「これは範囲外なので不適」と書き添えるところまでが1セットです。
- 同値の矢印の向きが合っていない。必要条件だけをたどって答えを出し、十分性の確認をしていないケースです。両方向が言えるときだけ同値の記号を使い、片方向なら「したがって」でつなぎ、最後に「逆に、このとき条件を満たすことを確かめる」と書きます。両辺を2乗した、分母を払ったという変形の後はとくに必要です。
- 変数を定義せずに使っている。「求める値をkとおく」「交点のx座標をtとする」を書かずに、いきなりkやtが登場する答案です。
- 図だけで済ませている。「図より明らか」で根拠を飛ばす形です。「図より、2つのグラフは1回交わる」ではなく、「f(0)<0、f(1)>0で、f(x)はこの区間で連続かつ単調増加なので、交点はただ1つ」と書き直します。
- 答えの形や単位の指定を守っていない。「既約分数で答えよ」「小数第2位まで求めよ」「aを用いて表せ」。指定は問題文にしか書かれていないので、解き終わった直後に問題文の末尾をもう一度読む習慣をつけます。約分していない、単位を書いていないという形だけの失点は、見直しの手順を決めれば消せます。
時間が足りないとき、どこまで書いて次に行くか
記述式は、1問に粘りすぎると他が白紙になります。判断の基準をあらかじめ決めておきます。
- 方針が立たないまま3分経ったら、方針だけ書いて次へ。「求めるものはこれ」「使うのはこの定理」の2行を残します。戻ってきたときの再開が速くなります。
- 場合分けは、全体像を先に書いてから中身を埋める。「aの値によって3つの場合に分かれる」と宣言し、(i)(ii)(iii)の見出しだけ先に書きます。時間が尽きても、分け方が示せたことは残ります。
- 小問(1)が解けなくても(2)に進む。「(1)の結果をこう仮定して以下を進める」と明記して使います。
- 計算が破綻したら、消さずに一本線で消して続きを書く。全部消して書き直すと、示せていた部分まで消えます。
- 最後の5分は、新しく解き始めない。白紙の設問に、求めるものの宣言と使う定理を一行ずつ入れ、答えの形の指定違反がないかを全問確認します。
自分の答案を採点する練習のしかた
過去問を解いたら、模範解答と答えの一致を確認するだけで終わらせず、次の4項目で自分の答案を見ます。過去問をいつから何年分やるかは過去問の進め方の記事にまとめています。
- 最初の1行が同じ働きをしているか。模範解答の1行目は、たいてい「何を求めるか」か「何を文字でおくか」です。自分の答案の1行目が計算から始まっていたら、そこが直すところです。
- 使った根拠が言葉で書かれているか。模範解答にある「〜より」「〜であるから」に印をつけ、自分の答案に同じ根拠があるかを照合します。式は合っているのに根拠の一言がない、という差が一番多く出ます。
- 場合分けの個数と、分ける理由が一致しているか。模範解答が3つに分けていて自分が2つなら、落ちた1つは何か。逆に多く分けていたなら、まとめられる根拠を書けるか。
- 模範解答にあって自分の答案にない「一言」を拾う。「x>0より」「等号が成立するのはこのとき」「これは題意を満たす」。この種の短い一文をノートに書き出していくと、1か月で自分が落としている型が数種類に絞られてきます。
この4項目は、採点基準を推測する作業ではなく、自分の答案に足りない言葉を集める作業です。週に1問でよいので、時間を計って通しで書き、この4項目で赤を入れる。普段の勉強の進め方は数学の勉強法の記事で扱っています。
マーク式が中心の人がやっておくべき最低限
志望校が全問マークの大学・方式だけなら、証明の書き方に時間をかける必要はありません。読本の分析でも、全問マークの大学・方式では証明問題が構造的に出題されないため、証明の書き方より計算のスピードと正確さを優先する時間配分が合理的だと整理されています。ただし、確認しておくことが2つあります。
1つめは、併願先に記述が混ざっていないかです。先に挙げたとおり、同じ大学でも方式で分かれます。出願する方式を並べたときに記述が1つでも混ざるなら、その分だけは練習が必要です。理系の科目全体の組み方は理系の数学・理科の記事を参照してください。
2つめは、マーク式でも、途中を残す書き方が見直しの精度を上げるということです。空所補充は1か所ずれると後がすべてずれます。問題用紙の余白を設問ごとに区切り、どの空所のための計算かが分かるように番号を振っておく。採点のためではなく、自分が見直すための工夫です。
最後にもう一度。記述式で問われているのは、答えを当てる力だけではなく、考えた筋道を人に伝える力です。「最後まで解けないと0点」ではなく「読み取れない形で止まると0点」だと考えると、練習すべきことがはっきりします。
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